下記のシリーズです。
【日本語アレコレの索引(日々増殖中)】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-306.htmlmixi日記2008年09月12日から
下記のトピ(「592」あたり)に入れようとしたコメントがあまりに長くなるので、日記の形にしました。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=33884363&comm_id=8873
「傍目八目」という言葉がある。意味は広く知られている。下記あたりが適確だろう。
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http://www.omi.gr.jp/column/column18.html
「おかめはちもく」と読みます。傍目は岡目とも書き、「ほかめ(他人の目)」「おかみ(岡見)」にも通じます。碁はそばで見ているときのほうが見通しが利き、対局者より八目先まで手が読めるという意味で、すなわち、ものごとは当事者よりも第三者のほうが良い考えや良い判断が出来るという例えです。
同じ意のことわざに、「傍観するものは審(つまびら)かなり」というのがありますね。
私も最近囲碁を打つようになって、このことわざの意味がわかるようになりました。
囲碁は「最終的に相手より多くの地を取れば勝ち」だと頭ではわかっていても、現実には目の前の石の損得に執着してしまいます。
また、毎週日曜日に放送されるNHK杯囲碁トーナメントを見ていても、日本を代表するプロの先生方でさえ、しばしば見損じを生じることがあります。その点、傍目から見ている解説者が、実に的確に解説するのを見るにつけ、このことわざの真理を見たような気がします。
欧米では、近視のことを「short sighted」と呼ぶことがあり、「目の前のことしか考えられず将来の展望に疎いこと」を、「近視眼的な考え方」という蔑んだ表現をするそうです。
じゃ、「遠視眼的な考え方」は、「将来の展望も見えないし、目の前のことすらわからないこと」なのかな、と勘ぐったりもしますが、そういう表現は無いようです。
日本人には近視が多い、といわれていますが、せめて考え方だけは近視眼的にならずに、グローバルな視野を持ちたいものですね。
とはいえ、次の選挙で勝つことしか考えていない政治家、目先のシェア争いにとらわれて中長期的な経営方針を立てられない企業のトップを見ると、それは難しいことなのかもしれません。目先の問屋への支払いのことをを考えている私などが言うと、「目くそ鼻くそをわらふ」ようなものですが。
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手元の『成語林』でも、ほぼ同様のことが書いてあるし、『広辞林』もほぼ同様。どうにも納得がいかない。
本題に入る前に、「おか」について索いてみる。ネット辞書の『大辞泉』には見当たらない。
ネット辞書の『大辞林』は下記のとおり。
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おか[をか] 【▽傍・▼岡】
〔補説〕 「おか(丘・岡)」と同源
他の名詞の上に付いて「かたわら」「局外」の意を表す。
・―ぼれ/・―焼き/・―目(おかめ)
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『広辞林』は
おか[をか] 【傍・岡】
かたわら。局外。「―・目(ぼれ)」
となっている。
ちなみに、『広辞林』の「おかぼれ」の漢字表記は「傍惚」、「おかめ」の漢字表記は「傍目」。「岡」はどこに言った。
本題の前にもうひとつ寄り道。
「傍目八目」って言葉のおもしろいところは冒頭にあげたトピでも指摘があるように、2回出てくる「目」が、読み方も意味も違うこと。
この指摘を読んだときに、「青は藍より出でて藍より青し」って諺を思いだした。こちらは2回出てくる「より」の意味が違う。前者が【起点の「より」】で、後者が【比較の「より」】(このあたりは前に本に書いた)。
で、「傍目八目」の「目」の話。
前者は「(第三者の)の視点」には異論がない。後者の「八目」は「八手(先)」って意味らしい。何を見てもそう書いてある。これは納得できません。
当方は囲碁はアマ有段の数歩手前って程度の棋力しかないが、こんな言い方は聞いたことがない。囲碁でも将棋でも「3手の読み」とか言う。「自分がこう打つ(指す)、相手がこう応じる、そうしたら自分がこう打つ(指す)」 って読みが常にできればアマ有段はもうすぐ、だったと思う。
囲碁の場合は「3目の読み」とも言う? 聞いたことがない。当然「八目」は「八手(先)」のことなんて、ありえないよ。このあたりは囲碁のわかる人に是非訊きたい。
じゃあ、「八目」がなんの意味かというと、2つ考えられる。これは囲碁を知らない人に説明するのは相当むずかしい。
1つ目。囲碁の勝敗はKOと判定の2種類に大別できる。判定の場合は、双方が獲得した「地」の量で決める。このときの単位が「目(もく)」。ただし、先に打つ黒のほうが有利なのでハンディがつく。これを、コミという。プロだと、6目半のコミが一般的。つまり最終的な「地」が白40目、黒46目だとすると、コミを引いて白の半目勝ちになる。つまり「八目」とは、「8目の地のハンディをつけられるくらい強い」という意味になる。
2つ目。囲碁の独特のルールで、置き石というハンディのつけ方がある。オセロにもあったと思う。実力が劣るほうがゲーム開始時に何目か所定の位置に石を置く。ここから生まれたと考えると、「置き石8目分のハンディをつけられるくらい強い」という意味になる。
ちなみに、「一目置く」って言葉もこの置き石ハンディ制度から生まれた。自分が「1目を置くハンディをもらうほど強いと相手の力を認める」くらいの意味になる。
ただし、一般に置き石は「3子(し)」「4子」と数える。ってことはこの説は弱いか。でも「一目置く」ってときは「目」で数えているから「八目」もアリだと思う。
まあ、別にどんな意味でも構わない。「当事者よりも第三者のほうが、事態がよく見えるもの」って意味にはかわりがない。
ただし、これは上級者の囲碁・将棋にはあてはまらないことが多い。控室でよってたかって検討していると、画期的な手が見つかることはある。でも、実際には「やはり対局者はよく読んでいる」ってケースのほうが多い。そりゃ集中力が違うも。時間が限られているほど、その確率が高くなる気がする。
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