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読書感想文『日本語の作文技術』

mixi日記2008年12月19日から

いろいろ事情があって、昔のデータを引っ張り出しました。

2001年8月

『日本語の作文技術』(本多勝一/朝日文庫/1982年1月20日第1刷発行/1987年9月25日第12刷発行)
「禁断の書」を再読してしまった。初めて読んだのはいつだったかね。手元にあるのは14年前に発行されたもの。感想をひとことで書くと、「瑕瑾はあるもののやはり名著」。まったく記憶になかったことが書かれていたりして、ちょっと驚いた。

【引用部】
  以上あげた計三例に共通する特徴は、テンの前が終止形と同じ語尾の連体形であること、つまりここでマルになっても語尾に変わりはないことだ。だからこそ、マルと誤解されないためにも、決して打ってはならない。(P.94)
 これがわが苦しみの根源。この文章を読んで以来、この形の読点を打たないことを原則にするために努力してきた。「マルと誤解されないため」という理由からではなく、どうにも美しくないから。しかし、どうにもならないこともけっこうあった(具体例は情けないことに思い出せない)。自分で原稿を書くときには、なんとか避けてきたつもりだが、他者が書いた原稿の中に出てきて、削除するためだけに大手術が必要なことがあった(だから具体例は思い出せないって)。徹底して排除する必要はないのでは。

【引用部】
 ということは、重要ではないテンはうつべきでないともいえるわけであり、これは原則といってもよいほど注意すべきことがらであろう。(P.87)
「重要ではないテンはうつべきでない」は、原文ゴシック。この点については後述。

【引用部】
  この原理は、長い文をわかりやすくする上でたいへん利用価値がある。文が長ければわかりにくく、短ければわかりやすいという迷信がよくあるが、わかりやすさと長短とは本質的には関係がない。問題は書き手が日本語に通じているかどうかであって、長い文はその実力の差が現れやすいために、自信のない人は短い方が無難だというだけのことであろう。(P.154)
 ここで言う「原理」とは、題目(一般に「主語」と呼ばれているものに近い)を述語に近づけること。本書の論理に従うなら、逆順にして冒頭などにもってくる場合は読点を打つ。
「わかりやすさと長短とは本質的には関係がない」は正論ではあるが、ちょっと無理がある。まず、大前提として「長い」の定義がない。しかも、こういう書き方はしていても、本多氏の文章自体は、一般的な基準で考えると一文はそれほど長くない。つまり、本多氏の考えている「長い」は、実際にはさほど長くはないのでは。これだけ明晰な文章を書く人が、ズルズルとした文を擁護するとは思えない。

【引用部】
  同様に「と」「も」「か」「とか」「に」「やら」「なり」なども、ひとつだけ使う場合は最初の単語につけるのが最もすわりがよい(×印はすわりの悪い方)。(P.185)
 この前にあるのは、「や」の使い方に関する説明。仮に「A、B、C、D、E」と5つの名詞を並べる場合(本多氏は「列記の読点」は「・」にしている)、「や」を1カ所だけ使うのなら「AやB、C、D、E」にするべきとしている。これは英語のandは最後の名詞の直前に置くのと対照的らしい。真偽のほどはよく判らない。個人的には、1カ所だけ使うより、全部読点にするほうがよいと思う。2つなら「AとB」、3つなら「A、B、C」という具合(3つなら「AとBとC」もアリだろう。4つだとこの形はきつい)。

【引用部】
  段落の意味が以上のようなものであることを理解すれば、どこで改行すべきかはおのずから明らかであろう。もし改行すべきかどうか自分でわからないとすれば、それはもはや論理的な文章を書いていないということである。(P.195)
 第七章(P.190~198)のテーマは「段落」。この章では、「段落の重要性」をかなりしつこく説明している。ただ、当然のことながら「どこで改行をするべきか」についての具体的な指摘はない。「おのずから明らかであろう」は正論だが、なんの説明にもなっていない。個人的な経験で言うと、明らかに改行するべき箇所というのはある。逆に、明らかに不適切な改行の例を目にすることもある。しかし、「どちらでもいい」ということもけっこうある。もうひとつ重要と思われるポイントは、論理性だけを追求していくと、改行の数が減りがちなこと(個人差があるかな)。
 この点でも、読点と改行は似ている。論理的に考えていくと、どうしても少なくなりがちで、読みにくい印象になってしまう。本書がむずかしい印象になっている理由のひとつは、この「読点と改行の少なさ」ではないか。筆者の信念に基づいた文体だから他者がケチをつけるべきものではないが、読みにくいものは読みにくい。
 もうひとつ、新聞記者の経験が長いせいか、「いえよう言葉」が目立つ。これは趣味の問題と言えば趣味の問題。

【引用部】
  繰り返しは、それを目的とする特別な場合以外は極力避けたほうがよい。たとえば逆接の場合でも「しかし」ばかり使わないで、「けれども」「ところが」「だが」「が」「にもかかわらず」などを混用する。それからヒンズー語や朝鮮語や日本語のように述語が文の最後にくる語順の言葉だと、どうしても同じ文末がつづきやすくなりがちだ。(P.207)
「混用する」のが正道だと思う。ただ、この点に関しては最近疑問も感じる。これも小手先のテクニックではないだろうか。つまり、逆接が頻出するなら、そうならないように工夫するのが正道なのでは……と思わなくもない。ものすごくたいへんなことだけどさ。文末に変化をつけることの重要性は、多くの「文章読本」が指摘している。しかし、きちんとした解決策を提示しているものは目にしたことがない。文末に偏執的にこだわった一冊を除いて……。

【引用部】
  例外的な場合とか特別な目的がある場合は別として、第一級の文章家は決して体言止めを愛用することがない。体言止めは、せまい紙面でなるべくたくさんの記事を押しこむために、たぶん新聞で発達した形式ではないかと思う。(中略)
 素直に考えてみよう。いったいだれが、実際の会話の中で「……景気は回復。」とか「……という前提での予測。」というような体言止めの話し方をするだろうか。そんなに体言止めが好きなら、カギカッコをはずして間接話法にすればよろしい。(P.217)
 おっしゃるとおり。この記述を初めて見た頃には、新聞記事で直接話法中の体言止めをけっこう見た気がする。ふと気が付くと、最近はほとんど使われていない。

【引用部】
 第九章のテーマは「リズムと文体」。著者も遠慮がちになっているのは当然で、このテーマを論理的に扱うのはムチャ。小説家が書いた「文章読本」がこの問題を重視している。気持ちは判る。文章の本質的な善し悪しに深く関わってくるのだから。しかし、どんな「名文」を紹介して、どれほど正確に解説したところで、読者にとってはなんの役にも立たない。「判る人は判る」としかいいようがなく、むしろ害のほうが大きい。判らない人は誤解する可能性が高い。

【引用部】
 助動詞の「ダ」と「デス」は、中学生の文法書などに明示されているとおり、接続は次の三種に限られる。
 1)体言(名詞・数詞等)に。
 2)「の」などの助詞に。
 3)未然形と仮定形だけが、動詞・形容詞および動詞型活用の助動詞・形容詞型活用の助動詞・特殊活用型の助動詞の、それぞれ連体形に。
  ということは、用言(活用する語)のあとに「ダ」や「デス」の連用形・終止形・連体形は接続しないということである。(P.223)
「第八章 無神経な文章」の6番目のテーマは「サボリ敬語」。「あぶないです」の類いが誤用である文法的な根拠はこれでよいのだろうか。
 はっきり申しまして、当方の文法に関する能力を超えている。整理を試みてみようか。断定の助動詞の助動詞「ダ」「デス」の活用は、以下のとおり。
  未然   連用   終止   連体   仮定   命令
  でしょ  でし   です   (です) -    -
  だろ   だっ/で だ    (な)  なら   -
 未然形と仮定形は許されるのだから、「危ないでしょう」(未然)、「危ないだろう(でしょう)」(未然)、「危ないなら」(仮定)は文法的に問題がないことが判る。しかし、「危ないですか」「危ないですね」「危ないですよ」など、終止形でも口語的ニュアンスが強い表現なら許される根拠にはなりようがない。だから文法って嫌い。
 この用法の話が「サボリ敬語」というテーマで出てきたのは、要は「うれしうございます」が正しく言えないから「うれしいです」になる、という趣旨。それは判る。しかし現代の標準的な言葉として、「あぶのうございます」とか「たこうございます」を正しいと主張するのは無理がある。問題は、「危ないです」「高いです」が美しくないなら、どうすれば使わないで済むかということ。これは超難問。

【引用部】
  以上ここに四例をあげてみて偶然気付いたのだが、この四例とも題目に当たる言葉が文の冒頭に出てこず、第六章一五一~一五四ページで述べた構文の好例となっている。(P.229)
 この点に関しては、P.241~の説明が判りやすい。題目は主題なのだから、「とくに作文技術を考えないで書くとき、無意識のうちに」意識の核にある題目が先に出てくるのは当然。しかし、リズムのことを考えると、題目が後ろにあるほうがよいことのほうが多い。このことを突き詰めていくと、「一文を長くしてはいけない」ということに繋がる気がする。要は、一文がさほど長くない場合は、判りやすさの面でも、リズムの面でも題目を後ろにもってきたほうがいい。しかし、一文が極端に長くなると、いつまでたっても題目が出てこない印象になって不安定な文になる。全然関係ない話だが、「こず、」っていう中止法はやはり美しくない。

 P.229~で、〈べつに「名文」というわけではないけれど、〉と断って、「あとがき」から例を引いているく。
【引用部】
 ……べつに後悔はしませんでした。むしろ感謝した。そのかわり準備には「一時間くらい」どころか一回分に二日も三日もかかりました。
 デス・マス体の中にポツリと「した」を使っていることを正当化している。この場合は、「した」にするほうがリズムがいいのは明らかだが、やっぱりムチャだろうな。一般にはこういった混用は認められない。論理でも説明不能。話はかわるが、ここに出てくる「しませんでした」って文法的には認められているのだろうか。この本は、一部がデス・マス体で書かれていて、「えませんでした」(P.302)、「いませんでした」(P.319)なんてのもある。

【引用部】
  前章までの課題は、リズムも含めていわば物理的ともいうべき基礎技術の問題であった。本書の目的もそこにあるのだから、もうここでやめてもいいけれど、もう一歩次の段階に踏みこんだ問題についても以下に論ずることにした。この段階以後だとかえって本は多くなり、文章作法・文章読本・文章入門などに類する先人たちの考察も、量的には大部分をここに当てている。(P.244)
 リズムの問題を「基礎技術」に含めることには疑問が残る。そのことを別にすると、大半の「文章読本」が役に立たない理由が書かれている。つまり、大半の「文章読本」は、論理で説明するのがむずかしい「次の段階に踏みこんだ問題」をテーマにしているということ。
 この文章で始まる第一〇章のテーマは、〈作文「技術」の次に〉。「1 書き出しをどうするか」は興味深い。「論文であればなるべく早く問題の核心へ、紀行文あればなるべく早く現地にはいる方がよい」というのは参考になる心得。大家だけあって、紀行文(ルポルタージュと紀行文ってどう違うんだろう。これを正確に定義するのはけっこうむずかしい)に関しては、いくつかのパターンをあげている。
・いきなり現場型
・よそごと型
・「珍しい話」「刺戟的な話」からはいる方法

【引用部】
  雪の道を角巻きの影がふたつ。(P.258)
 引用した文章の冒頭に出てくる文。言葉の問題で引っ掛かった。これは体言止めだが、どういう種類なんだろう。ちゃんと説明するのはけっこうむずかしそう。

 P.276~に、取材の量と文章の密度について書かれている。これも言葉の問題で引っ掛かった。密度にかかる形容詞として使われているのは「薄い」「高い」「濃い」。「密度が高い」とは言うが、「密度が低い」は使わない気がするのはなぜ? やはり、密度は「濃い」「薄い」と言うべきなのだろうか。あえて話をややこしくすると、「高密度」「低密度」とは言っても「濃密度」には異和感があり、「薄密度」はナシだろう。日本語はむずかしい。

【引用部】
 やぶれかぶれの市長は、しかし、佐藤栄作氏が沖縄密約事件で示したり、田中角栄氏が核持ち込み事件で示した態度と同様、あらゆる地位・権力を利用して居直り、否定する。(P.289)
あまりにも本質的な誤りであったり、誤りが多すぎると、その訂正によって全文章が骨抜きにされ、無意味になってしまうだろう。(P.292)
 すいません、くだらないインネンです。「片たり」だよー。

【引用部】
 「あなた」とか「私」とかの「主語」「人称代名詞」なしに、新幹線三時間、話がもったら、その人は日本語一級の資格がある、などと最近では放言するにいたっている。(P.334)
 解説(書き手は多田道太郎)の中にあった一文。たいした意味はないが妙に気になってしまった。

※句読点の打ち方に興味のある方は、下記の日記と併読ください。
【第2章4】句読点の打ち方
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-45.html
【板外編2】読点と使い方の2つの原則と6つの目安
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-145.html
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