読書感想文/『日本語練習帳』(大野晋/岩波新書/1999年1月20日第1刷発行)
下記の仲間。
日本語アレコレの索引(日々増殖中)
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http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1486031711&owner_id=5019671
mixi日記2010年07月25日から
【読書感想文の前に】
ちょっと事情があって、当方は本書を文章読本として読んだ。
その結果、まったく役に立たなかった。
じゃあ、「言葉に対する教養書として読むと価値があるのか」と訊かれると、首を傾げるしかない。
たとえば、「ハ」と「ガ」の話あたりは、超難問をわかりやすく解説していると思った。しかし、少し見方をかえると、辞書の記述をうんとわかりにくく書いているだけ、って気がしてきた。詳しくは末尾のリンク先を参照。
以下が、文章読本として読んだ【読書感想文】。
本書を文章読本の仲間にするのは、少し無理があるかもしれない。基本的には文章の書き方についての本ではない気もする。そう思いながら文章読本として扱うのは、文章の書き方に関する記述がチラホラとあるからだ。そのチラホラのほとんどが中途半端で的外れだから、インネンもつけたくなるって。
隠していてもしょうがないから書いてしまうが、数年前に文章読本みたいな本を書いたことがある。そのときにも、ほとんどの文章読本に共通する欠点について少し書いた。別に欠点をあげつらおうとしたわけじゃないし、妙なインネンをつける気もなかった。ちゃんと踏まえようとする気持ちはあったのに、いろいろ読めば読むほど迷路に入り、結果的に否定的な書き方になってしまっただけだ。
個別に例をあげているとキリがないので、文章読本の代表格として本書を取り上げた。他意はない(ってことにしておく)けど、文章読本としていちばん知られていると考えたからだ。人様が書いた本のことをあまり悪く書くのは気が引けたから、慇懃無礼にほめ殺した。
取り上げたテーマを箇条書きにする。
1)長い一文はとにかく短くしたほうがいいって記述
2)〈「のである」「のだ」を消せ〉って中途半端な記述
3)〈「が、」を使うな〉って記述
4)長い一文にはテンを多くしたほうがいい、と誤解させる記述
5)形容詞+デス(「高いです」「高かったです」の類い)の形に対する中途半端な容認
4)や5)は妄言に近いからどうでもいいとして、1)~3)あたりは一理あるからタチが悪い。解説を読んでいると、「そのとおりだ」と思えてしまう。実際には、文章読本にありがちなアホらしい心得でしかなく、ウノミにすると弊害が出てくる。これまでの記述と重複するのは承知で、簡単に書いておく。
1)についてはすでに見たように、ほとんどの文章読本が同じようなことを主張している。一般論でいうと、短くしたほうがいい。しかし、短い文が続くと稚拙な文章になる。そのあたりをちゃんと説明しないで、「短く書け」って主張するのはムチャ(ほとんどのセンセーがやっていることですけど)。
2)もそのとおりだとは思う。ただ本書にも書かれているとおり、乱発するのはよくないが、本当に強調したいときに使うのなら何も問題はない。文章が単調になるのを防ぐために、あえて「のである」や「のだ」を使ったほうがいいこともある。
もうひとつ気になるのは、重要な観点が抜けていること。このテーマを説明するなら、デス・マス体の「のです」にもふれる必要があるはずだ。デアル体の文章で「のである」「のだ」を乱発するとみっともない。同じように、デス・マス体の文章で「のです」を乱発するとみっともない。しかし、いくつかの理由があって「のです」を減らすのはけっこうむずかしい。まあ、このテーマをしっかり説明すると、かなりメンドーな話になるんだけど。
3)の「ガ、」についてはこの本でもいろいろ書いてきたが、十分な説明にはほど遠い。それだけむずかしいテーマなのに、どうして〈「が、」を使うな〉なんて簡単に片づけることができるんだろう。本当にそんなことが徹底できるのなら、やってもらおうか。
本書が駄本か名著かときかれれば、「名著なんでしょうね」というしかない。約200万冊も売れたってことは、それだけ多くの人に支持されたってことだ。「売れさえすれば名著なのか?」って疑問ももっともではある。しかし、あんなに売れた本が駄本だとしたら、世の中が間違っている。「100万冊を超えるようなベストセラーにロクな本はない」みたいな極論も聞くが、ちょっと乱暴だろう(ほぼそのとおりだとは思うけど)。
すっごく専門的な話を、シロウトでもトッツキやすいように噛み砕いて書いてあるのはたしかだ。読んでいると、なんとなくわかったような気にはなれる。しかし、あくまで「気にはなれる」だけで、そんな錯覚にはなんの意味もない。日本語の専門家から見ると相当ムチャな記述になっているらしく、批判的な意見もいろいろ出たようだ。いったい誰が読んで、いったい誰のタメになったのか、素朴に疑問を感じる。
ちゃんと日本語がわかる人でホントに本書が役に立ったと思う人がいるなら、ぜひ意見を聞いてみたい。
別件の調べもので部分的に再読した。〈すっごく専門的な話を、シロウトでもトッツキやすいように噛み砕いて書いてあるのはたしか〉は、訂正の必要があるかもしれない(黒笑)。
【チャレンジ日記──「は」と「が」 毒抜き編】
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【読書感想文の前に】
ちょっと事情があって、当方は本書を文章読本として読んだ。
その結果、まったく役に立たなかった。
じゃあ、「言葉に対する教養書として読むと価値があるのか」と訊かれると、首を傾げるしかない。
たとえば、「ハ」と「ガ」の話あたりは、超難問をわかりやすく解説していると思った。しかし、少し見方をかえると、辞書の記述をうんとわかりにくく書いているだけ、って気がしてきた。詳しくは末尾のリンク先を参照。
以下が、文章読本として読んだ【読書感想文】。
本書を文章読本の仲間にするのは、少し無理があるかもしれない。基本的には文章の書き方についての本ではない気もする。そう思いながら文章読本として扱うのは、文章の書き方に関する記述がチラホラとあるからだ。そのチラホラのほとんどが中途半端で的外れだから、インネンもつけたくなるって。
隠していてもしょうがないから書いてしまうが、数年前に文章読本みたいな本を書いたことがある。そのときにも、ほとんどの文章読本に共通する欠点について少し書いた。別に欠点をあげつらおうとしたわけじゃないし、妙なインネンをつける気もなかった。ちゃんと踏まえようとする気持ちはあったのに、いろいろ読めば読むほど迷路に入り、結果的に否定的な書き方になってしまっただけだ。
個別に例をあげているとキリがないので、文章読本の代表格として本書を取り上げた。他意はない(ってことにしておく)けど、文章読本としていちばん知られていると考えたからだ。人様が書いた本のことをあまり悪く書くのは気が引けたから、慇懃無礼にほめ殺した。
取り上げたテーマを箇条書きにする。
1)長い一文はとにかく短くしたほうがいいって記述
2)〈「のである」「のだ」を消せ〉って中途半端な記述
3)〈「が、」を使うな〉って記述
4)長い一文にはテンを多くしたほうがいい、と誤解させる記述
5)形容詞+デス(「高いです」「高かったです」の類い)の形に対する中途半端な容認
4)や5)は妄言に近いからどうでもいいとして、1)~3)あたりは一理あるからタチが悪い。解説を読んでいると、「そのとおりだ」と思えてしまう。実際には、文章読本にありがちなアホらしい心得でしかなく、ウノミにすると弊害が出てくる。これまでの記述と重複するのは承知で、簡単に書いておく。
1)についてはすでに見たように、ほとんどの文章読本が同じようなことを主張している。一般論でいうと、短くしたほうがいい。しかし、短い文が続くと稚拙な文章になる。そのあたりをちゃんと説明しないで、「短く書け」って主張するのはムチャ(ほとんどのセンセーがやっていることですけど)。
2)もそのとおりだとは思う。ただ本書にも書かれているとおり、乱発するのはよくないが、本当に強調したいときに使うのなら何も問題はない。文章が単調になるのを防ぐために、あえて「のである」や「のだ」を使ったほうがいいこともある。
もうひとつ気になるのは、重要な観点が抜けていること。このテーマを説明するなら、デス・マス体の「のです」にもふれる必要があるはずだ。デアル体の文章で「のである」「のだ」を乱発するとみっともない。同じように、デス・マス体の文章で「のです」を乱発するとみっともない。しかし、いくつかの理由があって「のです」を減らすのはけっこうむずかしい。まあ、このテーマをしっかり説明すると、かなりメンドーな話になるんだけど。
3)の「ガ、」についてはこの本でもいろいろ書いてきたが、十分な説明にはほど遠い。それだけむずかしいテーマなのに、どうして〈「が、」を使うな〉なんて簡単に片づけることができるんだろう。本当にそんなことが徹底できるのなら、やってもらおうか。
本書が駄本か名著かときかれれば、「名著なんでしょうね」というしかない。約200万冊も売れたってことは、それだけ多くの人に支持されたってことだ。「売れさえすれば名著なのか?」って疑問ももっともではある。しかし、あんなに売れた本が駄本だとしたら、世の中が間違っている。「100万冊を超えるようなベストセラーにロクな本はない」みたいな極論も聞くが、ちょっと乱暴だろう(ほぼそのとおりだとは思うけど)。
すっごく専門的な話を、シロウトでもトッツキやすいように噛み砕いて書いてあるのはたしかだ。読んでいると、なんとなくわかったような気にはなれる。しかし、あくまで「気にはなれる」だけで、そんな錯覚にはなんの意味もない。日本語の専門家から見ると相当ムチャな記述になっているらしく、批判的な意見もいろいろ出たようだ。いったい誰が読んで、いったい誰のタメになったのか、素朴に疑問を感じる。
ちゃんと日本語がわかる人でホントに本書が役に立ったと思う人がいるなら、ぜひ意見を聞いてみたい。
別件の調べもので部分的に再読した。〈すっごく専門的な話を、シロウトでもトッツキやすいように噛み砕いて書いてあるのはたしか〉は、訂正の必要があるかもしれない(黒笑)。
【チャレンジ日記──「は」と「が」 毒抜き編】
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