7)句読点の打ち方/句読点の付け方──「、と」と「と、」の使い分け

 句読点の打ち方に関してはいろいろ書いてきた。
 下記の質問を読んで、けっこう重要なことにふれていなかった気がするので、改めて書いてみる。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10119577105
【質問文】===========引用開始
「、」(読点)の使い方。
彼が話したかったことは結局なにだったのか、と悩んでしまった。
彼が話したかったことは結局なにだったのかと、悩んでしまった。
どっちがよいですか
一かたまりの話があって
「~と考えた」「~という意味のようだ」「~とのこと」といった文章が続くとき
読点の場所が「と」の前か後ろかでいつも悩みます。
どなたか教えてください。
================引用終了

 積年の課題が解決した気がして、ちょっとうれしかった。
 うれしかったけど、質問板の結果は何?
 フーン。〈読点は「と」の後に〉打つんだ。そんなことはないと思うよ。

 質問の例文を少し書きかえる。下記のうちどれが一番自然か。
1)彼が話したかったことは結局なんだったのか、と悩んでしまった。
2)彼が話したかったことは結局なんだったのかと、悩んでしまった。
3)彼が話したかったことは結局なんだったのかと悩んでしまった。

 句読点に関する文献はいろいろ読んだが、この質問の件に関して論理的に説明しているもの見たことがない。案外盲点になっているのかも。
 下記【句読点の打ち方──簡略版】の「初級者向けのアドバイス」のようなものならアチコチに転がっている。
・話の切れ目に打つ(声に出して読んでみて、「ね」を入れられる場所に打つ、という人もいます)
・読むときに息継ぎをするところに打つ

 繰り返すが、これは小学校低学年レベルの説明。具体的な説明が何もないから、なんの論理性もない。
 ↑の1)〜3)のどこが「話の切れ目」で、どこが「息継ぎをするところ」なのか論理的に説明できる人がいるのだろうか。
 
 悪名高い【くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)】http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/joho/kijun/sanko/pdf/kugiri.pdfを見ても、この問題に関しては論理的な説明は何もない。
 そもそもこの(案)は、かの有名な『日本語の作文技術』(本多勝一。以下、前例に合わせて本多読本と呼ぶ)によって木っ端微塵にされ、最初から最後まで論理性などないことが明らかにされている。これは文章読本の世界のほぼ常識なんだから、いまさらこういうものを持ち出すのはやめてほしい。本多読本を無視して句読点について語るのは無謀すぎる。

 本題に戻る。
 1)でも2)でも構わない。本多読本に従えば、3)でも構わない。これもすでに書いたように、本多読本に従うと読点(本多読本では「テン」と読んでいる)の数が減る。個人的には、3)ではちょっと読みにくいと思う。
 1)と2)のどちらが望ましいかと言うと、個人的には1)に打つ。読点を打つかわりに下記のように書きかえれば、理由はハッキリする。

3)’「彼が話したかったことは結局なんだったのか」と悩んでしまった。

「 」中は引用句と考えることができる。この場合、「と」を「 」の中に入れる人はいないでだろう。
「~と考えた」「~という意味のようだ」「~とのこと」などの場合も、たいてい1)と同様で「、と」のほうが自然。文脈にもよるかもしれないが、「と、」だと不自然なことが多いはず。

 ところが、世間には2)の打ち方をする人もいる。この理由の説明は少々厄介な話になる。
「と」のような基本的な助詞には多くの意味がある。辞書の全文は末尾に。
http://kotobank.jp/word/%E3%81%A8?dic=daijisen&oid=12961900
 ここでは、簡略化して「引用のト」(↓の辞書の【1】格助詞の「2」)と「仮定のト」(仮定条件などを表わす。↓の辞書の【2】接続助詞の「1」〜「3」)に分けて考える。
「引用のト」に読点を打つなら、「、と」のほうが自然。しかし、「仮定のト」の場合は「と、」のほうが自然。
 このへんが混同されているような気がする。辞書の例文を見る。

〈「引用のト」の例文〉(古文の例を除く)
「正しい(、)という結論に達する」

〈「仮定のト」の例文〉
「玄関を開けると、子供が迎えに出てきた」
「汗をかくと(、)風邪をひく」
「見つかると(、)うるさい」

 読点が不要な場合もあるが、もし打つなら「引用のト」は「、と」で、「仮定のト」は「と、」の形だろう。
 見分け方はむずかしくない。

  1)のように「と」の前を「 」の中に入れられるなら「引用のト」(「、と」が自然)。
  「と」を「〜たら」(もしくは「〜なら」)にかえられるなら「仮定のト」(「と、」が自然)。
「玄関を開けたら、子供が迎えに出てきた」
「汗をかいたら(、)風邪をひく」
「見つかったら(、)うるさい」

 ただし、どちらも読点を打たなくてもよいことが多いのは、すでに見たとおり。
「仮定のト」に関して詳しくは下記をご参照ください。非常にめんどうな話だが、表だけ見れば、だいたいのことがわかるはず。
【「~たら」と「~れば」をめぐって〈2〉&〈3〉 「ば」「と」「たら」「なら」】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1624.html

「引用のト」か「仮定のト」かまぎらわしい場合もある。はっきりしなくても悩む必要はない。「、と」と「と、」でも構わないことが多いのだから。いざとなったら、読点を打たなければいい。


「引用のト」で2)のように打つ理由を論理的に説明するのはむずかしい気がするが、下記のように考えることができるかも。
 原文の読点を削除し、「私は、」を加える。
4)私は、彼が話したかったことは結局なんだったのかと悩んでしまった。

「私は、」の読点は『日本語の作文技術』流にいえば「逆順の読点」。言葉の並べ方がヘンなので読点が必要になる。下記のように逆順を解消してやると、読点は不要になる。
5)彼が話したかったことは結局なんだったのかと私は悩んでしまった。

 ここでこの文の構造を考える。これも『日本語の作文技術』の考え方を参考にしている。

  彼が話したかったことは結局なにだったのかと→悩んでしまった。
  私は→悩んでしまった。

「悩んでしまった」にかかるフレーズが2つある。このうち「私は」を省略したのが元の文と考えることができる。そうなると、省略していない〈「悩んでしまった」にかかるフレーズ〉を明確にするためには2)のように読点を打つべきでは……。
 さらに下記のようにしてみる。

  6)彼が話したかったことは結局なんだったのかとしょせんは他人事とは思いながら悩んでしまった。
  6)’彼が話したかったことは結局なんだったのかと、しょせんは他人事とは思いながら(、)悩んでしまった。
  6)’’「彼が話したかったことは結局なんだったのか」と(、)しょせんは他人事とは思いながら(、)悩んでしまった。

「引用のト」ではあっても、「悩んでしまった」にかかる2つのフレーズをはっきりさせるためには、「と、」にするほうが自然だろう。6)’’のようにカギカッコをつけても、やはり「と、」の形にしたくなる。

 もしかすると慣例の影響も関係あるかもしれない。
 小説などで下記のような形をよく目にする。

「彼が話したかったことは結局なんだったのか」
 と、彼女は言った。

 この形は明らかに「引用」だが、カギカッコがあるので「と、」になっている。この影響から、「と、」の形を見慣れているような気がする。この場合の読点も、論理的には打たなくても構わない。しかし、下記だと事情がかわり、是非とも読点を打ちたくなる。

「彼が話したかったことは結局なんだったのか」
 と、ため息をつきながら彼女は言った。

 Web辞書『大辞林』の「引用のト」の例文にある下記も同様(少し記号の使い方をかえている)。
  「性は善なり」と孟子にもあるよ。
 この場合、カギカッコを使わないなら
  性は善なり、と孟子にもあるよ。
 が自然。この読点は削除しにくい。カギカッコがあるから、
  「性は善なり」と孟子にもあるよ。
 になる。「と」の直後の読点はあってもなくてもいい。

 お品書きは下記参照。
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-132.html

 句読点に関する基本的な話は、下記をご参照ください。
【句読点に関する記述】
■Yahoo!知恵袋 知恵ノート
【句読点の打ち方──簡略版】
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n140029

 さらに詳しくは、下記の1)と3)~6)あたりをご参照ください。
【句読点の打ち方/句読点の付け方】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-3138.html

■Web辞書『大辞泉』から
http://kotobank.jp/word/%E3%81%A8?dic=daijisen&oid=12961900
================引用開始
と【と】

【1】[格助]名詞、名詞的な語、副詞などに付く。
1 動作をともにする相手、または動作・関係の対象を表す。「子供―野球を見に行く」「友達―けんかをした」「苦痛―闘う」「しぐれ降る暁月夜紐解かず恋ふらむ君―居(を)らましものを」〈万・二三〇六〉
2 (文や句をそのまま受けて)動作・作用・状態の内容を表す。引用の「と」。「正しい―いう結論に達する」「名をばさかきの造(みやつこ)―なむいひける」〈竹取〉
3 比較の基準を表す。「君の―は比べものにならない」「昔―違う」「思ふこといはでぞただにやみぬべき我―ひとしき人しなければ」〈伊勢・一二四〉
4 動作・状態などの結果を表す。「有罪―決定した」「復讐(ふくしゅう)の鬼―化した」「年をへて花の鏡―なる水は散りかかるをやくもるといふらむ」〈古今・春上〉
5 (副詞に付いて新たな副詞をつくり)ある状態を説明する意を表す。「そろそろ―歩く」「そよそよ―風が吹く」「ほのぼの―春こそ空に来にけらし天のかぐ山霞たなびく」〈新古今・春上〉
6 (数量を表す語に付き、打消しの表現を伴って)その範囲以上には出ない意を表す。…までも。「全部で一〇〇円―かからない」「一〇〇キロ―走らなかった」
7 (同一の動詞・形容詞を重ねた間に用いて)強調を表す。「世にあり―あり、ここに伝はりたる譜といふものの限りをあまねく見合はせて」〈源・若菜下〉
◆4は「に」と共通する点があるが、「と」はその結果を表すのに重点がある。7は、現在も「ありとあらゆる」などの慣用句的表現の中にわずかに残っている。

【2】[接助]活用語の終止形に付く。
1 二つの動作・作用がほとんど同時に、または継起的に起こる意を表す。…と同時。…とすぐ。「あいさつを終える―いすに腰を下ろした」「玄関を開ける―、子供が迎えに出てきた」「銀(かね)請け取る―そのまま駆け出して」〈浄・大経師〉
2 ある動作・作用がきっかけとなって、次の動作・作用が行われることを表す。「汗をかく―風邪をひく」「写真を見る―昔の記憶がよみがえる」「年がよる―物事が苦労になるは」〈滑・浮世床・初〉
3 順接の仮定条件を表す。もし…すると。「見つかる―うるさい」「ドルに直す―三〇〇〇ドルほどになる」「今言ふ―悪い」〈伎・幼稚子敵討〉
4 逆接の仮定条件を表す。たとえ…であっても。…ても。
意志・推量の助動詞「う」「よう」「まい」などに付く。「何を言われよう―気にしない」「雨が降ろう―風が吹こう―、毎日見回りに出る」
動詞・形容動詞型活用語の終止形、および形容詞型活用語の連用形に付く。「たのめずば人をまつちの山なり―寝なましものをいさよひの月」〈新古今・恋三〉「ちと耳いたく―聞いて下され」〈浮・曲三味線・一〉
5 次の話題の前提となる意を表す。「気象庁の発表による―、この夏は雨が少ないとのことだ」
◆3は中世以降用いられた。また、中古から使われていた4は、現代語では4のように特殊な慣用的用法として残っているだけである。

【3】[並助]いくつかの事柄を列挙する意を表す。「君―ぼく―の仲」「幸ひの、なき―ある―は」〈源・玉鬘〉
◆並立する語ごとに「と」を用いるのが本来の用法であるが、現代語ではいちばんあとにくる「と」を省略するのが普通となっている。
================引用終了
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