【「ガ」か「ヲ」か──「本ガ読める」か「本ヲ読める」か】改

 下記の改訂版です。
195)【「ガ」か「ヲ」か──「本ガ読める」か「本ヲ読める」か】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1205.html

 ちょっと乱暴だったし、辞書のリンクがかわったので、少し書きかえる。
「ガ」と「ヲ」に関しては、いままでにも書いているが、ほかの話が長かったりするのでまとめておきたい。
■過去の話
【板外編9】文法はお好きですか?──そんな物好きな人はいません
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1203.html
【板外編9-2】文法はお好きですか?──やっぱりどう転んでも嫌いです
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1204.html

 【練習問題1】
 次の2つの表現がどう違うのか考えてください。
  1)本ガ読める
  2)本ヲ読める

 まず基本的な話から。「赤い本」に書いたのがもう10年近く前(...( = =) トオイメ)なので、最近のWeb辞書の記述を確認してみる。

http://kotobank.jp/word/%E3%81%8C?dic=daijirin&oid=DJR_ga_-090
■Web辞書『大辞泉』から※一部抜粋(重言)。以下同。
================引用開始
が【が】
【1】[格助]名詞または名詞に準じる語に付く。
2 希望・好悪・能力などの対象を示す。「水―飲みたい」「紅茶―好きだ」「中国語―話せる」「さかづき―たべたいと申して参られてござる」〈虎明狂・老武者〉
================引用終了
 Web辞書の『大辞林』もほぼ同様。

 今度は「を」をひく。
http://kotobank.jp/word/%E3%82%92?dic=daijisen&oid=19897900
■Web辞書『大辞泉』から
================引用開始
を【を】
【1】[格助]名詞、名詞に準じる語に付く。
[格助]名詞、名詞に準じる語に付く。
1 動作・作用の目標・対象を表す。「家―建てる」「寒いの―がまんする」「水―飲みたい」「ただ月―見てぞ、西東をば知りける」〈土佐〉

◆1の「水を飲みたい」などは、「を」の代わりに「が」を用いることもある。
================引用終了

■Web辞書(『大辞林』から)
================================

( 格助 )
体言またはそれに準ずる語に付く。
⑥希望・好悪などの心情の向けられる対象を表す。現代語では「が」も用いられる。 「水-飲みたい」 「君-好きな人はずいぶんいるよ」 「身-惜しとも思ひたらず/徒然 9」
================================

「を」に関する記述はどちらもよくわからないことがある。
 まず『大辞泉』。〈「水を飲みたい」など〉の「など」が何を表わすのか不明。
『大辞林』のほうは一応説明してある。これと「が」の記述を合わせるとどういうことになるか。
 1)希望・好悪・能力などの対象は「が」を用いる。
 2)希望・好悪などの対象は「を」を用いるが、現代語では「が」も用いられる。

 1)と2)を合わせると、次のようになる。
 3)希望・好悪は本来は「を」だが、現代語では「が」を用いることもある。
 4)能力は昔も今も「が」を用いる。
 そうなのだろうか。「能力」だけが別扱いなのは偶然か故意か不明。

 手元の『広辞林』(1988年版)の「が」には以下のように書いてある。
================引用開始

2)希望・好ききらい・能力などの対象になる事柄(対象語)を表わす。「本―ほしい」「水―飲みたい」「野球―が好きだ」
(中略)
2)について、「水を飲みたい」のように「を」をとることもある。「を」の場合は「飲む」との関係が強く出され、「が」の場合は「飲みたい」との関係が強く出されるという。「…が…たい」の形が標準的とされるが、「を」をとる言い方もふえつつある。
================引用終了
 後半の注の細かい部分に関してはあまり考えたくない。どちらとの関係が強いなんて言えるのだろうか。まあ一応辞書の記述だから信じておこう(笑)。ただ、この書き方だと、「好ききらい」や「能力」は「を」をとらないとも読める。
「水が飲みたい」は「水」が「飲みたい」。「水を飲みたい」は「水を飲む」ことが「したい」……という説も聞いたことがある。
「水が飲みたい」のほうが切実……という説も聞いたことがある。〈が」の場合は「飲みたい」との関係が強く出される〉からかもしれない。
 このあたりはいろいろな説があるが、どこまで本当なのかは不明。たしかにそのとおりと思う人もいれば、全部単なる主観と考える人もいるだろう。個人的には「大きな違いはない」と思う。
 
 で、今度は「を」を見る。
================引用開始
「水―飲みたい」など、対象語を表わす用法もある。これは普通「が」を用いるものとされているが、近来、「を」も用いられるようになった
================引用終了
『広辞林』の記述から20年以上たっているんだから、多少世の趨勢がかわっても不思議ではない。現代では「を」でも「が」でもいいってことだろう。本来はどちらか、ってことまではかわらないと思うのだが。
「赤い本」を書くときにこのあたりは複数の辞書をひいたから間違いない(と思う)。本来は「が」という説が多かった気がする。 例によって「諸説ある」ということなのかもしれない
 ということで、安心して「赤い本」の記述を引用する。
================引用開始
 本書の★ページ★行目で、「(という応急処置で)わかりにくさが緩和できます」という表現を使いました。この表現は、「……わかりにくさを緩和できます」とすることもできます(「……わかりにくさを緩和することができます」とすることも可能ですが、ここでは除外します。「~ことができる」に関しては★ページ参照)。
 ガでもヲでもよさそうですが、本来はガにするべきです。その理由を考えるために、もう少し簡単な例を【練習問題1】にしました。
 2つの表現を見比べて、ガを使っている1)のほうが自然に感じられるかたは、すぐれた言葉の感覚の持ち主です。こう書いている当人は、ヲでもさほどヘンではない気がしています。「本当はどちらが正しいのか」と考えようとするときに役立つのが、文法の知識です。
 文法書などを見なくても、ふつうの国語辞典の「ガ」の項目に答えが出ています。用法のひとつとして「好悪、希望、可能などの対象を示す」といった記述があるはずです。具体例をあげると次のようになります。

  ・本ガ好きだ(好悪)
  ・本ガ読みたい(希望)
  ・本ガ読める(可能)

 さらに、この用法に関してはガのかわりにヲを使う例もふえている、と記載している辞書もあります。「本来はガを用いるべきで、ヲも許容される」というのが、文法的な考え方になるのでしょう。
 さすがに、「本ヲ好きだ」には抵抗を感じられるかたが多いはずです。「本ヲ読みたい」「本ヲ読める」はどう感じますか。
 このガとヲの問題は、「前後にガが目立つ」などの理由がある場合を除き、できるだけガを使うべきだとは思います。しかし、ヲはあくまで許容なのだからガを使うのが正しい、と強く主張する気にはなれません。
 もう一度はじめの例を見てみましょう。

  ・わかりにくさガ緩和できます
  ・わかりにくさヲ緩和できます

 この2つの表現は、「本ガ読める」と同様に「可能」を表しています。本来はガを用いるべきでしょうが、ヲを使ったほうが語感がよくありませんか。
 これは、ヲも使われるようになった経緯を考えると、当然なのかもしれません。本来はガを使うべきだったのに、ヲを使う例がふえてきたのには、それなりの理由があるはずです。ほかにも理由はあるにしても、語感のよさが大きな理由のひとつだったと思います(ほかの理由を説明すると長くなるので、ここでは「語感」という多少あいまいな言葉だけをあげておきます)。
 一般に、文法的には間違っていても定着する用法は、正しい用法よりも語感がよいことが多いようです。このことは、言葉の問題として取りあげられることが多い「ラ抜き言葉」(★ページ参照)のことを考えると、わかりやすいと思います。
================引用終了

 ただ、この「ガ」か「ヲ」かの問題には、【板外編9-2】で書いたような新たな問題が出てきて、解決できずにいる(泣)。
 下記の文は「ガ」と「ヲ」のどちらが自然でしょうか。ナゾはナゾを呼ぶ……。

  3)山田君は、100m{ヲ/ガ/―}10秒で走る……ヲもしくは―が自然
  4)山田君は、100m{ヲ/ガ/―}1分で泳ぐ……ヲもしくは―が自然
  5)山田君は、1リットルの水{ヲ/ガ/―}10秒で飲む……ヲが自然

  3)の可能形 山田君は、100m{ヲ/ガ/―}10秒で走れる……ヲもしくは―が自然
  4)の可能形 山田君は、100m{ヲ/ガ/―}1分で泳げる……ヲもしくは―が自然
  5)の可能形 山田君は、1リットルの水{ヲ/ガ/―}10秒で飲める ……ヲが自然だが、この場合はガもアリなのでは。

【3】そもそも3)の文は、そのままで可能形なのではないか
  6)山田君は、100mヲ10秒で走る
  7)山田君は、100mヲ10秒で走れる

 6)と7)はほぼ同義ではないか。この文形がどの程度特殊なものなのかは不明。
 4)の文を少し変形する。山田君は遠泳ガ得意だとする(この文は「山田君が遠泳ヲ得意だとする」ともできる)。

  山田君は、20km{ヲ/ガ/―}泳ぐ
   ……ガは不自然。ヲもやや不自然? 自然なのは―かハ?
  山田君は、20km{ヲ/ガ/―}泳げる
   ……ガは不自然。ヲもやや不自然? 自然なのは―かハ?

 ちなみに、「ガ」の話の仲間で下記のような泥沼的な話もある(笑)。
【「ガ、」の修辞学 】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-915.html
【チャレンジ日記──「は」と「が」 毒抜き編】(2009年04月25日)
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-592.html


 ネットで読める論文では、下記あたりがわかりやすいかもしれない。
5)「可能表現の対象格標示「ガ」と「ヲ」の交替」
http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/archive/globe/18/08.pdf
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