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読書感想文 『日本語ウォッチング』(井上史雄/岩波新書/1998年1月20日第1刷発行/2001年4月5日第6刷発行)

【読書感想文 お品書き 】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1935282276&owner_id=5019671
●『読書感想文』カテゴリートップは下記。
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-category-19.html

 ちょっと事情があって、古い読書感想文をアップする。
 2002年6月の話。
 文章読本などではないので、さほど悪態はついていない。

 言葉の使われ方などについて、全国的な調査などを折り込みながら分析している。そもそもこの本を知ったのは、ネットの会議室http://kotobakai.seesaa.net/article/8174276.htmlで〈「ラ抜き言葉」になる言葉の判別法〉の一例として教えてもらったため。「ラ抜き言葉」に関して1章を割いている。

 なお、小説などに出てくるラ抜きことばはいろいろ拾われている。小林多喜二が、昭和初期の小説の中で使ったものが早いが(『蟹工船』一九二九年の「朝起きれなくなった」)、多喜二は一九〇三年(明治三六)年生れで五歳から北海道で育ったそうだから、図㈵-2の北海道の状況を反映しているとみられる。また川端康成の『雪国』(一九三五年)にも「遊びに来れないわ」という例があるが、地元芸者のことばだから、一律に扱えない。文章に書かれたラ抜きことばの早い例は、このように方言起源が多い。前述のように東京では昭和初期の若者が実際に使っていたから、小説などに登場するのは、かなり遅れたことになる。(p.9)
『雪国』に関しては、ほかの本でも見たことがある。「地元芸者」が使ったことよりも、「会話」の中の言葉であることがポイントのような気がする。現代文でも、“地”の文章で使われていると抵抗を感じるが、会話中だと「遊びにこられない」のほうがむしろ不自然では。この補助動詞の「くる」の可能形は、きわめて「ラ抜き言葉」になりやすい。『蟹工船』の例は、初めて知った。

一般的に短い動詞はよく使われる動詞でもあるから、使用頻度数の方が作用が大きいかと思ったが、研究結果によると、動詞の音節数の方が、要因として一番効いているようだ。(p.10)
 p.9〜では「ラ抜き言葉」の「使われ方の違い」が分析されている。「使用頻度数」と「音節数」のどちらの要因が大きいのかは不明。専門家が、こう書いているのだから「音節数」のほうの要因が大きいのだろう。
 漠然と感じていたのは「音節数の少ない動詞はラ抜きになりやすい」ということ。理由として考えられるのは、「そういう動詞のほうが使用頻度が高いから」。ということは、「使用頻度」のほうがポイントになる。そのことを証明するには、「音節数が少なくても使用頻度が低い」動詞を探せばいいのだが、そんな動詞は思いつかない。逆に「音節数が多くても使用頻度が高い」動詞は何かというと、これが微妙。「考えられる」「数えられる」あたりだろうか。

 幸いなことに、自分の使っている言い方がラ抜きことばかどうか不安なときの、実用的簡便判定法がある。ラ抜きかどうか心配になったら、その言い方の最後の「る」を取り除いて命令形としても使えるかを試せばいい。「走れる」の場合なら、「る」を取り去った「走れ」はまったく当たり前の命令だ。ラ抜きことばではないから使っていい。「走る」は五段動詞なのだ。これに対して、「見れる」の場合だと、「る」を取り去って「見れ」にすると命令形としてはおかしい。だから「見れる」はラ抜きことばによる言い方出、使わない方がいい。おかしなときには「見られる」のように「ら」をいれればよい。「見る」は一段動詞なのだ。(p.24〜25)
 これがネットの会議室で紹介された判別法。ただし、本書でもふれているように、命令形を「見れ」「起きれ」と言う地方の人には役に立たない。北海道と東北地方日本海側に加え、最近は西日本の各地にも広がっているらしい。そうなると、この判別法はますます通用しなくなっていく。本書より後に出版されたある「文章読本」では、やはり命令形に着目した判別法を紹介していた。ただしその書き方は本書より不完全。方言の話にもふれていない。こういうのは「単なる不勉強」と笑われる。

ことばは服装などと同じく自己表現の一つで、どんなことばを使うかで人柄まで判断されることがある。服装は歴史的にカジュアルな方向に変わってきたが、だからといって、どんな場面でもくだけたかっこうをするわけにはいかない。ことばも服装と同じで、場合により、周囲に合わせて、どんなふうに受け取られるか考えながら、使い分ける必要がある。(p.30)
 齊藤美奈子も「文体は服装」みたいなことを書いていた。観点は違うけど、同じような結論になっているのは偶然か必然か。

 デスは、はじめは「山です」のように名詞に付くだけだったが、戦前から形容詞にも付くようになった。「よいです」「恐ろしいです」のように文章語的な形容詞に直接デスを付けるのはまだ抵抗があるようだ。しかし口語的な形容詞を使い、助詞のネとかヨを付けて、「いいですよ」「こわいですよ」というような例文だと、自然な表現だと判断される。年齢差もあり、地域差もあるが、いずれにしても、形容詞にデスが付きはじめたのが最近であることを示す。(p.154〜155)
 文章語的な形容詞だと抵抗があるか否かは微妙。「恐ろしいですね」なら異和感はない。「よいですね」に抵抗を感じるのは、「よい」の言い切り自体が口語で使うと不自然だからではないか。理由はまったく判らないが、言い切りの場合は「よい」よりも「いい」のほうが自然に感じられる。デアル体で考えても、「いいよ」は自然だけど「よいよ」は不自然。

 
【20170205追記】
 関連性が高いのは下記あたりかな。
【句読点の打ち方/句読点の付け方──実例編2】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2347.html
===========引用開始
【引用部】『道化の華』(太宰治)
気の毒で見れなかった。(P.14)
 古い文学作品に「ラ抜き言葉」が出てくるという噂は聞いていた。よく言われるのは『雪国』だったかな。ただそれは、セリフの中だったと思う。この『道化の華』の使用例は「地の文」。しかもこここだけではない。東北も「ラ抜き言葉」を使うところ多いらしいから、太宰もそうだったのだろうか。なんらかのルールで使い分けているなら、それはそれですごい話だけど。

【引用部】『道化の華』(太宰治)
飛騨もまた葉蔵の顔を見れなかった。(P.17)
君は、ものを主観的にしか考えれないから駄目だな。(P.21)
 後者はセリフだからアリだろう。
===========引用終了

【文化庁もさぁ──ラ抜き言葉、姑息、雨模様……etc.】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2143.html
文化庁もさぁ2──「天声人語」オマエもか ラ抜き言葉/大寒小寒……etc.
===========引用開始
〈ら抜きの是非、どうやら勝負が見えてきた〉
「勝負」とか考えている段階で話にならない。

〈彼らが親になる頃には誤用とは言われまい〉
 だからなんなのだろう。そんな遠い将来のことは誰にもわからない。しかも、この問題に関して安易に「誤用」とか言わないほうがいい(自戒を込めて)。ところで、現在では「誤用」なんですか? それは書き言葉の場合? 話し言葉の場合?

〈川端康成の「雪国」でも、芸者駒子が「来れないわ」「来れやしない」と多用している〉
 これは、国語学者?あたりがよく例に出す。それを聞きかじって、●●が例に出すこともある。いくつか考えるべきことがあるが、長くなるので2点だけあげる。
1)登場人物のセリフということは方言では?
 作者が、登場人物の個性として「ラ抜き言葉」を使わせている可能性が高い。伊豆の方言がどうなっているのか、駒子(のモデル)の出身地がどこなのかは知らない。とにかく、セリフ(話し言葉)なんだからどんな方言を使っても不思議ではない。当時の大阪を舞台にした物語に関西弁が頻出しても、それが標準的な言葉づかいと考える人はいないでしょうに。
2)文豪が使えば正解なのか?
 近頃、この点が気になっている。現代とはかなり事情が違うことは加味するべきだろう。いまから●十年後、時代を代表する作家の村上春樹が使っているからこの表現はアリとか、といった考え方ができるのだろうか。カフカの言葉づかいや知的レベルが現代の同年齢の少年のもの、ととられるのもちょっと困る。じゃあ21世紀初頭の日本語の規範は何にとるべきか、というのは超難問だけど。
 辞書の類いが古典の用例を重視する考え方はわかる。ときには死語の判断を誤らせる気もするが。
 よく話題になるのが「全然+肯定形」を文豪が使っているという話。それが、いまでもOKという根拠になるのだろうか。夏目漱石あたりは相当勝手な言葉づかいをしているから、ウノミにするのはマズいのでは。
===========引用終了
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