伝言板 板外編3──文語調の表現は避ける
「押しも押されぬ」という表現に関して質問をいただいたので、「赤い本」の記述から抜粋します。質問内容に関しては、下記をご参照ください。
【足跡帳NO.4】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=940827597&owner_id=5019671
【練習問題33】
次の表現を、読みやすい印象の表現に書きかえてください。
1)可及的速やかに
2)~という特徴を有しています
3)明日、会議を行います
4)会議を開始します
ここであげたのは、「文語調」で堅苦しく感じられる表現です(「文語調」というのは適切な表現ではありませんが、こう呼ぶことにします)。
まず、書きかえ案をあげておきます。
1)可能な限り速やかに
2)~という特徴をもっています
3)明日、会議を開きます
4)会議を始めます
1)の「可及的速やかに」は、「お役所言葉」などと呼ばれる類の表現です。ふつうの文章の中で、このような表現を使う人はいないでしょう。書きかえ案でも構いませんが、「できるだけ速く」ぐらいにすれば、もっと読みやすい印象になります。
2)の「有する」という言葉は、たいていの場合、「もつ」に書きかえても問題がありません。ただしこの例文の場合は、「~という特徴がある」にしたほうがもっと読みやすい印象になります。
3)の「行う」という言葉も、できるだけ避けたほうが無難です。とくに過去形の「行った」は「オコナった」とも「イった」とも読めてしまうので、使うべきではありません。「明日、会議をします」としても構いませんが、ニュアンスが少しかわる気がします。
4)「開始する」は、「開」と「始」という意味が似ている言葉をダブらせている動詞です。こういう動詞は、片方の言葉などを使って書きかえたほうが読みやすい印象になります。
・停止する→止める/やめる
・使用する→使う/用いる
・軽減する→軽くなる/減る
・提示する→示す
ただし、書きかえることによってニュアンスが大きくかわる場合もあるので、無理をしてまで徹底する必要はありません。
【Coffee Break】
文語調の誤用
【練習問題34】
次の文のどこがヘンなのか考えてください。
1)この旅館には、同じ間取りの部屋がひとつとない。
2)ホームラン王になった彼は、押しも押されぬ4番打者に成長したといえるだろう。
ここであげた表現はデス・マス体で使うことが少ない気がするので、例文をデアル体にしました(このあとも同様の理由で例文をデアル体にする場合があります)。
「立派に見える」と考えられるためか、文語調の表現はとくに必要がないときにも使われることが多いようです。誤用もよく目にするのは、意味をよく考えずに形だけをマネしようとするせいでしょうか。
1)は「ひとつと」の使い方がヘンです。「ふたつと」にするべきでしょう。「ふたつとない」にすれば間違いではなくなりますが、依然としてヘンです。「ふたつとない」は、「(世界中を探しても)めったに例がない」ぐらいの強い表現ですから、この程度のことで使うべきではありません。「この旅館は、すべての部屋の間取りが違う。」ぐらいで十分でしょう。
2)の「押しも押されぬ」を、「押すに押されぬ」としている誤用もよく目にします。正しい使い方は、「押しも押されもせぬ」です。
この場合も、「押しも押されもせぬ」に直してもヘンな感じが残ります。「押しも押されもせぬ」という強い表現と、文末の「~だろう」がチグハグな印象になっているからです。「不動の4番打者」ぐらいで十分でしょう。「ホームラン王」になったほどの選手ですから、「球界を代表する4番打者」としてもよいかもしれません。
【追記】
文中で「押すに押されぬ」を誤用としているのは間違いです。
下記をご参照ください。<(_ _)>
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-292.html
伝言板 板外編3──文語調の表現は避ける〈2〉
下記の仲間。
日本語アレコレの索引(日々増殖中)
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2020.html
日本語アレコレの索引(日々増殖中)【7】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1789673749&owner_id=5019671
mixi日記2011年11月23日から
下記の続き。
【伝言板 板外編3──文語調の表現は避ける】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=990061731&owner_id=5019671
ちいと必要があって、「いえよう言葉」関する「赤い本」の記述から抜粋します。
●「~といえよう」は避ける
【練習問題35】
次の表現を、読みやすい印象の表現に書きかえてください。
1)問題といえよう
2)問題となろう
3)問題があろう
4)問題がなかろう
ここにあげた文末は、いずれも避けたほうが無難です。それぞれ、次のように書くほうが読みやすい印象になります。
1)問題といえよう↓問題といえるだろう
2)問題となろう ↓問題となるだろう
3)問題があろう ↓問題があるだろう
4)問題がなかろう↓問題がないだろう
もう少し細かく見ていきましょう。1)~3)は、デス・マス体で次のように書くこともできます。
1)問題といえましょう
2)問題となりましょう
3)問題がありましょう
ふつうの文章では避けたほうが無難という点は、「~といえよう」などの文末と同様です。
少しよけいなことを書くと、2)のような使い方の「と」は、原則として「に」にしたほうが読みやすい印象になります。すべてを「に」にしたほうがよい、ということではありません。本書では、「と」でも「に」でもよい場合には「に」を使っていますが、例外もあります。たとえば、この項の冒頭近くで〈「避けたほうが無難」などとして〉〈「避けたほうが無難」として〉と、2カ所も「と」を使っています。「に」にするべきか迷いましたが、語感が悪くなる気がしてやめました。このほか、「一体となる」「一丸となる」のような慣用句も、「に」にすると不自然です。
3)の「問題があろう」は、同じ「あろう」を使っていても「問題であろう」なら、堅苦しい感じがずっと軽くなります。ふつうの文章でも、目にすることが多い形です(【Coffee Break】参照)。
3)4)の「あろう」と「なかろう」は、文末以外でも使われることがあります。「問題があろうがなかろうが、とにかくやるしかない」という使い方なら、例文とは用法が違うのでさほど堅苦しさが感じられません。これも「問題があってもなくても、とにかくやるしかない」ぐらいにしたほうがよい気はしますが。
【Coffee Break】
「~といえよう」はよく見かけるが……
●「~といえよう」を毛嫌いするきわめて個人的な理由
「~といえよう」に類する表現は、乱用しなければ問題はないのかもしれません。きわめて個人的な理由で、この表現を毛嫌いしているところがあります。気になりはじめたのは、第2章でも書いたレジャー関係の業界誌の仕事したことがきっかけです。
業界関係者が書いた原稿の中に、「~といえよう」に類する文末が頻繁に出てきました。【練習問題35】としてあげたもののほか、「できよう」「わかろう」「されよう」「輝こう」「明るかろう」……など、「だろう」という言葉が禁句になっているような印象でした。「いくらなんでもこんな使い方をしない」と思った表現もあります。
前項で「どんなにむずかしい故事でも、それにふさわしい雰囲気の文章の中で使うのなら」ヘンではない、と書きました。文語調の言葉も、同様です。それなりの文章の中で適切に使うのならヘンではありません。ただし、ふつうの文章の中ではむやみに使わないほうが無難です。
【足跡帳NO.4】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=940827597&owner_id=5019671
【練習問題33】
次の表現を、読みやすい印象の表現に書きかえてください。
1)可及的速やかに
2)~という特徴を有しています
3)明日、会議を行います
4)会議を開始します
ここであげたのは、「文語調」で堅苦しく感じられる表現です(「文語調」というのは適切な表現ではありませんが、こう呼ぶことにします)。
まず、書きかえ案をあげておきます。
1)可能な限り速やかに
2)~という特徴をもっています
3)明日、会議を開きます
4)会議を始めます
1)の「可及的速やかに」は、「お役所言葉」などと呼ばれる類の表現です。ふつうの文章の中で、このような表現を使う人はいないでしょう。書きかえ案でも構いませんが、「できるだけ速く」ぐらいにすれば、もっと読みやすい印象になります。
2)の「有する」という言葉は、たいていの場合、「もつ」に書きかえても問題がありません。ただしこの例文の場合は、「~という特徴がある」にしたほうがもっと読みやすい印象になります。
3)の「行う」という言葉も、できるだけ避けたほうが無難です。とくに過去形の「行った」は「オコナった」とも「イった」とも読めてしまうので、使うべきではありません。「明日、会議をします」としても構いませんが、ニュアンスが少しかわる気がします。
4)「開始する」は、「開」と「始」という意味が似ている言葉をダブらせている動詞です。こういう動詞は、片方の言葉などを使って書きかえたほうが読みやすい印象になります。
・停止する→止める/やめる
・使用する→使う/用いる
・軽減する→軽くなる/減る
・提示する→示す
ただし、書きかえることによってニュアンスが大きくかわる場合もあるので、無理をしてまで徹底する必要はありません。
【Coffee Break】
文語調の誤用
【練習問題34】
次の文のどこがヘンなのか考えてください。
1)この旅館には、同じ間取りの部屋がひとつとない。
2)ホームラン王になった彼は、押しも押されぬ4番打者に成長したといえるだろう。
ここであげた表現はデス・マス体で使うことが少ない気がするので、例文をデアル体にしました(このあとも同様の理由で例文をデアル体にする場合があります)。
「立派に見える」と考えられるためか、文語調の表現はとくに必要がないときにも使われることが多いようです。誤用もよく目にするのは、意味をよく考えずに形だけをマネしようとするせいでしょうか。
1)は「ひとつと」の使い方がヘンです。「ふたつと」にするべきでしょう。「ふたつとない」にすれば間違いではなくなりますが、依然としてヘンです。「ふたつとない」は、「(世界中を探しても)めったに例がない」ぐらいの強い表現ですから、この程度のことで使うべきではありません。「この旅館は、すべての部屋の間取りが違う。」ぐらいで十分でしょう。
2)の「押しも押されぬ」を、「押すに押されぬ」としている誤用もよく目にします。正しい使い方は、「押しも押されもせぬ」です。
この場合も、「押しも押されもせぬ」に直してもヘンな感じが残ります。「押しも押されもせぬ」という強い表現と、文末の「~だろう」がチグハグな印象になっているからです。「不動の4番打者」ぐらいで十分でしょう。「ホームラン王」になったほどの選手ですから、「球界を代表する4番打者」としてもよいかもしれません。
【追記】
文中で「押すに押されぬ」を誤用としているのは間違いです。
下記をご参照ください。<(_ _)>
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-292.html
伝言板 板外編3──文語調の表現は避ける〈2〉
下記の仲間。
日本語アレコレの索引(日々増殖中)
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2020.html
日本語アレコレの索引(日々増殖中)【7】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1789673749&owner_id=5019671
mixi日記2011年11月23日から
下記の続き。
【伝言板 板外編3──文語調の表現は避ける】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=990061731&owner_id=5019671
ちいと必要があって、「いえよう言葉」関する「赤い本」の記述から抜粋します。
●「~といえよう」は避ける
【練習問題35】
次の表現を、読みやすい印象の表現に書きかえてください。
1)問題といえよう
2)問題となろう
3)問題があろう
4)問題がなかろう
ここにあげた文末は、いずれも避けたほうが無難です。それぞれ、次のように書くほうが読みやすい印象になります。
1)問題といえよう↓問題といえるだろう
2)問題となろう ↓問題となるだろう
3)問題があろう ↓問題があるだろう
4)問題がなかろう↓問題がないだろう
もう少し細かく見ていきましょう。1)~3)は、デス・マス体で次のように書くこともできます。
1)問題といえましょう
2)問題となりましょう
3)問題がありましょう
ふつうの文章では避けたほうが無難という点は、「~といえよう」などの文末と同様です。
少しよけいなことを書くと、2)のような使い方の「と」は、原則として「に」にしたほうが読みやすい印象になります。すべてを「に」にしたほうがよい、ということではありません。本書では、「と」でも「に」でもよい場合には「に」を使っていますが、例外もあります。たとえば、この項の冒頭近くで〈「避けたほうが無難」などとして〉〈「避けたほうが無難」として〉と、2カ所も「と」を使っています。「に」にするべきか迷いましたが、語感が悪くなる気がしてやめました。このほか、「一体となる」「一丸となる」のような慣用句も、「に」にすると不自然です。
3)の「問題があろう」は、同じ「あろう」を使っていても「問題であろう」なら、堅苦しい感じがずっと軽くなります。ふつうの文章でも、目にすることが多い形です(【Coffee Break】参照)。
3)4)の「あろう」と「なかろう」は、文末以外でも使われることがあります。「問題があろうがなかろうが、とにかくやるしかない」という使い方なら、例文とは用法が違うのでさほど堅苦しさが感じられません。これも「問題があってもなくても、とにかくやるしかない」ぐらいにしたほうがよい気はしますが。
【Coffee Break】
「~といえよう」はよく見かけるが……
●「~といえよう」を毛嫌いするきわめて個人的な理由
「~といえよう」に類する表現は、乱用しなければ問題はないのかもしれません。きわめて個人的な理由で、この表現を毛嫌いしているところがあります。気になりはじめたのは、第2章でも書いたレジャー関係の業界誌の仕事したことがきっかけです。
業界関係者が書いた原稿の中に、「~といえよう」に類する文末が頻繁に出てきました。【練習問題35】としてあげたもののほか、「できよう」「わかろう」「されよう」「輝こう」「明るかろう」……など、「だろう」という言葉が禁句になっているような印象でした。「いくらなんでもこんな使い方をしない」と思った表現もあります。
前項で「どんなにむずかしい故事でも、それにふさわしい雰囲気の文章の中で使うのなら」ヘンではない、と書きました。文語調の言葉も、同様です。それなりの文章の中で適切に使うのならヘンではありません。ただし、ふつうの文章の中ではむやみに使わないほうが無難です。
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