的を射る/的を得る/正鵠をめぐって──「的を得る」は誤用とは言えないような
下記の仲間。
【日本語アレコレの索引(日々増殖中)】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-306
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1354427241&owner_id=5019671
mixi日記2009年12月15日から
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1364010227&owner_id=5019671
直接的には下記のコメント欄の続き。
【ちょっと待ってもらえないかなぁ──簡単日本語力チェック】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1363198809&owner_id=5019671
結論だけ確認しておく。
現代の一般的解釈では、「的を射る」が正用で、「的を得る」は誤用。
ついでに書くと「当を得る」が正用で、「当を射る」は誤用。
「正鵠」の場合は「射る」でも「得る」でも間違いではない。ただし、本来の形は「得る」。
以下は、それを裏づけるための小むずかしい話。
できるだけリンク先を読まなくていいように書いたつもりだけど、青い日記でゴメンね。
「的を射る」「的を得る」に関しては↑に書いた下記の記述でいいだろう。
================================
「的を射る」が正解。その説明をするなら、「的を得る」は、「的を射る」「当を得る」の混用と言いましょうね。ついでに言えば「的を売る」は誤用ではありませんが、すたれた商売です。
さらに言うなら「正鵠」の話にもふれてほしいところ。正確に書こうとするとエラいことになるけど、こちらは本来は「正鵠を得る」(原典がこっちになっている)で、「正鵠を射る」とも言う。そのくらい書いてくれれば、ヘーボタンのひとつも押したくなるのにさ。
●朝日新聞から──番外編 よく目にする誤用の御三家
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=746503742&owner_id=5019671
================================
問題は、「正鵠」の話。以前【朝日新聞から──番外編 よく目にする誤用の御三家】では下記のように書いた。
================================
あと、コメントにあった「的を得る」。さすがにまともな知識レベルの人は誤用しないだろう(現段階では)。「的を射る」と「当を得る」の混用だろう。「的を射る」と同様の言葉に、「正鵠を射る」なんてのもある。どこかのトピで「正鵠を得る」も間違いとはいいきれないとか書いてあったけど、真偽のほどは不明。とりあえず「射る」にしとくほうが無難だろう。「正鵠」は的の中心にある黒丸のことなんで、厳密に言えばこちらのほうがずっと正確ってことになる。いまYahooの辞書を索いてみたら、「セイコク」のほかに「セイコウ」って慣用読みがあるらしい。初めて知った。どう勘違いしたらそんな読み方になるんだ。
================================
これはあまり正確な記述ではない。「正鵠」がなんであるのかは間違っていないけど。以前トピでやり取りをしたことがある。やり取りの内容はほぼ覚えているが、具体的な場所は覚えていない。
……と書いて気になるので調べてみた。こういうとき、私的データベースhttp://mixi.jp/view_bbs.pl?id=41829800が役に立つ。最後のほうだった(泣)。しかも当方はこれ以前にもどこかで見ているらしい……。
【直したい間違い 気をつけたい表現】43
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=3754464
※これは役に立たない。
【使わないように心がけている言葉はありますか?】(246~260)
http://mixi.jp/view_bbs.pl?page=13&comm_id=519758&id=6481035
このときにキーワードで検索した結果は下記だと思う。
http://www.google.com/search?hl=ja&client=safari&rls=ja-jp&q=%E6%AD%A3%E9%B5%A0%E3%82%92%E5%A4%B1%E3%81%86%E3%80%80%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%B0%E3%81%AF%E7%94%9F%E3%81%8D%E7%89%A9%E3%81%A7%E3%81%99&btnG=%E6%A4%9C%E7%B4%A2&lr=&aq=f&oq=
改めて調べてみた。
まず例によって、ネット辞書から。
http://dic.yahoo.co.jp/search?stype=0&ei=UTF-8&dtype=2&p=%E6%AD%A3%E9%B5%A0
『大辞泉』===========================
正鵠(せいこく)を射る
物事の急所を正確につく。正鵠を得る。「―射た指摘」
================================
正鵠(せいこく)を得る
「正鵠を射る」に同じ。「―得た言(げん)」
================================
『大辞林』===========================
正鵠(せいこく)を射(い)る
物事の急所・要点を正しくおさえる。正鵠を得る。正鵠を失わず。
================================
『大辞林』には「正鵠を得る」の項はない。
この2つを見る限り、「正鵠を射る」が正解で「正鵠を得る」でも間違いではない、ってことになる。こういう解釈が一般的になるとちょっと困る。
「どちらが正解か」と言われたら、「どちらも間違いではない」と言うしかない。しかし、「どちらが本来の形か」と言われたら、「正鵠を得る」だろう、と言うしかない。
ネット情報では下記が役に立ちそう。ただし、「3つ目のサイト」に書かれているのは「面白い見方」ではない。「正鵠を得る」の語源とも言うべき話だ。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail.php?queId=8945024
本来の原典を探す。手元の『成語林』を見るに、原典は『礼記』の「射義」とある。ネットで検索して原文を探す。
孔子曰、射者何以射、何以聴。循聲而發、發而不失正鵠者、其唯賢者乎。
『成語林』の書き下し文を転記しておく。
================================
孔子曰く、射る者は何を以て射、何を以て聴く。声に循(したが)いて発し、発して正鵠を失わざる者は、其れ惟(ただ)賢者か。
================================
※「唯」と「惟」がどう違うのかは知らない。
意味がイマイチわからないのは当方がバカなのだろうか。
「礼記 射義 正鵠」で探した結果。
http://www.google.com/search?client=safari&rls=ja-jp&q=%E7%A4%BC%E8%A8%98%E3%80%80%E5%B0%84%E7%BE%A9%E3%80%80%E6%AD%A3%E9%B5%A0&ie=UTF-8&oe=UTF-8
原文には「正鵠を失う」しか出ていない。つまり「正鵠を得る」は、「外す」が「失う」なら「外さない」は「得る」だろう、っていう推測でしかない。それでも「正鵠を射る」よりは「正鵠を得る」のほうが本来の形だろうな。ただ、日本語として「正鵠を射る」と「正鵠を得る」のどちらが自然なのかは別の話だと思う。本来の形ではない「正鵠を射る」が広まったのもそのせいだろう。
「正鵠を得る」からさらに類推して「的を得る」でも間違いではないと主張する人がいる。別にその考えを否定する気はない。でも目の前のゲラに出てきたら、必ず「的を射る」に直す(問答無用に赤字を入れるか否かはケースバイケース)。
「正鵠を得る/射る」の場合はどちらでも間違いではないので放置する。
自分ではどちらを使うかと言うと……こんな言葉は使わない。イチバンの理由はジジむさいから。さらに言えば、どちらの形でも誤用と取られる可能性がある言葉を、常用漢字表にもない字を使ってまで書く理由はないもんね。
こうして、またひとつ「新死語」http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1360517677&owner_id=5019671が増えてしまう。
ε= (´∞` ) ハァー
【追記】
ここまで行くと「研究」になっている。
【BIFFの亜空間要塞】
http://biff1902.way-nifty.com/biff/2010/05/post-fc48.html
【20130323追記】
天下の『日本国語大辞典』は「的を得る」も採録しているらしい。こりゃ「誤用」とするのは無理だな。
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n121646
【20150305追記】
ちょっともめているそうな。
【2013年に「的を得る」という表現が正しくなっていたことが判明。国語辞典が謝罪】
http://netgeek.biz/archives/30735?
「正しくなった」(と書く)のだろうか。
「誤りではなくなった」だけだろう。
「正しくなった」と「誤りではなくなった」は決して同じではない。
もし「的を得る」が「正しくなった」のなら、「的を射る」の立場はどうなる。
それはともかく、「的を得る」はずっと以前から誤りではなかったはず。
>「情けは人のためならず」、「煮詰まる」、「確信犯」、ら抜き言葉あたりの誤用も正式に認められないだろうか。
そんなミ●もク●も一緒にしたような暴論を太字で書かないでほしい。
【日本語アレコレの索引(日々増殖中)】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-306
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1354427241&owner_id=5019671
mixi日記2009年12月15日から
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1364010227&owner_id=5019671
直接的には下記のコメント欄の続き。
【ちょっと待ってもらえないかなぁ──簡単日本語力チェック】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1363198809&owner_id=5019671
結論だけ確認しておく。
現代の一般的解釈では、「的を射る」が正用で、「的を得る」は誤用。
ついでに書くと「当を得る」が正用で、「当を射る」は誤用。
「正鵠」の場合は「射る」でも「得る」でも間違いではない。ただし、本来の形は「得る」。
以下は、それを裏づけるための小むずかしい話。
できるだけリンク先を読まなくていいように書いたつもりだけど、青い日記でゴメンね。
「的を射る」「的を得る」に関しては↑に書いた下記の記述でいいだろう。
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「的を射る」が正解。その説明をするなら、「的を得る」は、「的を射る」「当を得る」の混用と言いましょうね。ついでに言えば「的を売る」は誤用ではありませんが、すたれた商売です。
さらに言うなら「正鵠」の話にもふれてほしいところ。正確に書こうとするとエラいことになるけど、こちらは本来は「正鵠を得る」(原典がこっちになっている)で、「正鵠を射る」とも言う。そのくらい書いてくれれば、ヘーボタンのひとつも押したくなるのにさ。
●朝日新聞から──番外編 よく目にする誤用の御三家
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=746503742&owner_id=5019671
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問題は、「正鵠」の話。以前【朝日新聞から──番外編 よく目にする誤用の御三家】では下記のように書いた。
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あと、コメントにあった「的を得る」。さすがにまともな知識レベルの人は誤用しないだろう(現段階では)。「的を射る」と「当を得る」の混用だろう。「的を射る」と同様の言葉に、「正鵠を射る」なんてのもある。どこかのトピで「正鵠を得る」も間違いとはいいきれないとか書いてあったけど、真偽のほどは不明。とりあえず「射る」にしとくほうが無難だろう。「正鵠」は的の中心にある黒丸のことなんで、厳密に言えばこちらのほうがずっと正確ってことになる。いまYahooの辞書を索いてみたら、「セイコク」のほかに「セイコウ」って慣用読みがあるらしい。初めて知った。どう勘違いしたらそんな読み方になるんだ。
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これはあまり正確な記述ではない。「正鵠」がなんであるのかは間違っていないけど。以前トピでやり取りをしたことがある。やり取りの内容はほぼ覚えているが、具体的な場所は覚えていない。
……と書いて気になるので調べてみた。こういうとき、私的データベースhttp://mixi.jp/view_bbs.pl?id=41829800が役に立つ。最後のほうだった(泣)。しかも当方はこれ以前にもどこかで見ているらしい……。
【直したい間違い 気をつけたい表現】43
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=3754464
※これは役に立たない。
【使わないように心がけている言葉はありますか?】(246~260)
http://mixi.jp/view_bbs.pl?page=13&comm_id=519758&id=6481035
このときにキーワードで検索した結果は下記だと思う。
http://www.google.com/search?hl=ja&client=safari&rls=ja-jp&q=%E6%AD%A3%E9%B5%A0%E3%82%92%E5%A4%B1%E3%81%86%E3%80%80%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%B0%E3%81%AF%E7%94%9F%E3%81%8D%E7%89%A9%E3%81%A7%E3%81%99&btnG=%E6%A4%9C%E7%B4%A2&lr=&aq=f&oq=
改めて調べてみた。
まず例によって、ネット辞書から。
http://dic.yahoo.co.jp/search?stype=0&ei=UTF-8&dtype=2&p=%E6%AD%A3%E9%B5%A0
『大辞泉』===========================
正鵠(せいこく)を射る
物事の急所を正確につく。正鵠を得る。「―射た指摘」
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正鵠(せいこく)を得る
「正鵠を射る」に同じ。「―得た言(げん)」
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『大辞林』===========================
正鵠(せいこく)を射(い)る
物事の急所・要点を正しくおさえる。正鵠を得る。正鵠を失わず。
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『大辞林』には「正鵠を得る」の項はない。
この2つを見る限り、「正鵠を射る」が正解で「正鵠を得る」でも間違いではない、ってことになる。こういう解釈が一般的になるとちょっと困る。
「どちらが正解か」と言われたら、「どちらも間違いではない」と言うしかない。しかし、「どちらが本来の形か」と言われたら、「正鵠を得る」だろう、と言うしかない。
ネット情報では下記が役に立ちそう。ただし、「3つ目のサイト」に書かれているのは「面白い見方」ではない。「正鵠を得る」の語源とも言うべき話だ。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail.php?queId=8945024
本来の原典を探す。手元の『成語林』を見るに、原典は『礼記』の「射義」とある。ネットで検索して原文を探す。
孔子曰、射者何以射、何以聴。循聲而發、發而不失正鵠者、其唯賢者乎。
『成語林』の書き下し文を転記しておく。
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孔子曰く、射る者は何を以て射、何を以て聴く。声に循(したが)いて発し、発して正鵠を失わざる者は、其れ惟(ただ)賢者か。
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※「唯」と「惟」がどう違うのかは知らない。
意味がイマイチわからないのは当方がバカなのだろうか。
「礼記 射義 正鵠」で探した結果。
http://www.google.com/search?client=safari&rls=ja-jp&q=%E7%A4%BC%E8%A8%98%E3%80%80%E5%B0%84%E7%BE%A9%E3%80%80%E6%AD%A3%E9%B5%A0&ie=UTF-8&oe=UTF-8
原文には「正鵠を失う」しか出ていない。つまり「正鵠を得る」は、「外す」が「失う」なら「外さない」は「得る」だろう、っていう推測でしかない。それでも「正鵠を射る」よりは「正鵠を得る」のほうが本来の形だろうな。ただ、日本語として「正鵠を射る」と「正鵠を得る」のどちらが自然なのかは別の話だと思う。本来の形ではない「正鵠を射る」が広まったのもそのせいだろう。
「正鵠を得る」からさらに類推して「的を得る」でも間違いではないと主張する人がいる。別にその考えを否定する気はない。でも目の前のゲラに出てきたら、必ず「的を射る」に直す(問答無用に赤字を入れるか否かはケースバイケース)。
「正鵠を得る/射る」の場合はどちらでも間違いではないので放置する。
自分ではどちらを使うかと言うと……こんな言葉は使わない。イチバンの理由はジジむさいから。さらに言えば、どちらの形でも誤用と取られる可能性がある言葉を、常用漢字表にもない字を使ってまで書く理由はないもんね。
こうして、またひとつ「新死語」http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1360517677&owner_id=5019671が増えてしまう。
ε= (´∞` ) ハァー
【追記】
ここまで行くと「研究」になっている。
【BIFFの亜空間要塞】
http://biff1902.way-nifty.com/biff/2010/05/post-fc48.html
【20130323追記】
天下の『日本国語大辞典』は「的を得る」も採録しているらしい。こりゃ「誤用」とするのは無理だな。
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n121646
【20150305追記】
ちょっともめているそうな。
【2013年に「的を得る」という表現が正しくなっていたことが判明。国語辞典が謝罪】
http://netgeek.biz/archives/30735?
「正しくなった」(と書く)のだろうか。
「誤りではなくなった」だけだろう。
「正しくなった」と「誤りではなくなった」は決して同じではない。
もし「的を得る」が「正しくなった」のなら、「的を射る」の立場はどうなる。
それはともかく、「的を得る」はずっと以前から誤りではなかったはず。
>「情けは人のためならず」、「煮詰まる」、「確信犯」、ら抜き言葉あたりの誤用も正式に認められないだろうか。
そんなミ●もク●も一緒にしたような暴論を太字で書かないでほしい。
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