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「ガ、」の修辞学

 下記の仲間。
【日本語アレコレの索引(日々増殖中)】
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mixi日記2009年12月16日から

【伝言板】の仲間でもある。
【総索引】
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 あんまり使いたくない札だったけど、ちょっと事情があって。
「ガ、」「が、」「~ガ、」「~が、」……どう表現してもいい。本家の清水読本は「が」と表記しているが、これはちょっと違うと思う。

 まずは「赤い本」から引く。
 これは読点の打ち方の一部に当たる。詳細は下記を参照してほしい。
【伝言板 板外編2──読点と使い方の2つの原則と6つの目安】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=978497848&owner_id=5019671

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6)一文の中に「ガ、」は2回使わない

 これは目安ではなく、「絶対に使ってはいけない」と書きたいぐらいです。
 たとえば、次の文を見てください。

 〈原文3〉
 接続助詞の「ガ」に関してですガ、これは「逆接」の意味で使われることが多いのですガ、ほかにもいくつかの働きがありますガ、「順接」や「留保・抑制」の意味でも使われます。

 こんな文を書く人は少ないかもしれませんが、座談会などの発言を忠実に文字にすると、このような感じになっていることは珍しくありません。これは、あまり断言調で話してはいけない、という意識が働くためのようです。文章を書く場合にも、あらたまった感じで書こうとして肩に力が入ると、「ガ、」が目立ってしまうことがあります。
〈原文3〉に出てくる「ガ、」は、「関してですガ、」と「ありますガ、」が「順接のガ、」(表記がわずらわしいので、以後は「留保・抑制」の「ガ、」も含めてこう呼びます)で、「多いのですガ、」が「逆接のガ、」になりそうです。「順接のガ、」は、できるだけ使わないほうが文章がすっきりした感じになります。たとえば、次の〈原文4〉と〈書きかえ文4〉を比べてみてください。

 〈原文4〉
 接続助詞の「ガ」に関してですガ、これは多くの場合「逆接」の意味で使われます。
 〈書きかえ文4〉
 接続助詞の「ガ」は、多くの場合「逆接」の意味で使われます。

〈原文4〉でもさほど問題はないと思いますが、特別な理由がない限り、おすすめはできません。〈原文4〉がまだ許容されるのは、一文が短いからです。これが長い文になって「順接のガ、」がいくつもあり、〈原文3〉のように「逆接のガ、」まで出てくると、読み手が戸惑います。
〈原文3〉は次のように書きかえるべきです。〈書きかえ文3-1〉のように「順接のガ、」を消すだけでもマシになります。ただし、この場合は文が少し長いので、〈書きかえ文3-2〉のように分割するほうがわかりやすいはずです。

 〈書きかえ文3-1〉(「順接のガ、」を消した例)
 接続助詞の「ガ」は、「逆接」の意味で使われることが多いのですガ、ほかにもいくつかの働きがあり、「順接」や「留保・抑制」の意味でも使われます。
〈書きかえ文3-2〉(文を分割してわかりやすくした例)
 接続助詞の「ガ」は、多くの場合「逆接」の意味で使われます。しかし、ほかにもいくつかの働きがあり、「順接」や「留保・抑制」の意味でも使われます。

 一文の中に「逆接のガ、」が2回以上出てくる文は、たいていの場合、論旨が混乱している「悪文」の一種です。論旨を整理したうえで、書き直さなければなりません。「順接のガ、」と、「逆接のガ、」が一文の中に混在すると、「ガ、」の役割がわかりにくくなり、やはり論旨が混乱しているような印象になります。
 もうひとつ、気をつけなければならないのは、主語の働きをする言葉につくガです。次の用例を見てください。

 a タメになることガ、たくさん書かれている本です。
(ガの直後の読点はなくても構わないが、ほかに読点がないので、打っても問題はない)
 b タメになることガたくさん書かれているので、読んだ人ガ必ず感銘を受ける本です。
 (「タメになることガ」の直後に読点を打つのはヘン。「読んだ人ガ」の直後は読点を打っても悪くはないが、打たないほうがいい)
 c タメになることガたくさん書かれているので、読んだ人ガ必ず感銘を受ける本ですガ、一般の書店には置かれていません。
(一文が長くなって、「逆接のガ、」が出てくる文の場合は、ほかのガの直後には読点を打たない。この文の場合は2つに分割するほうがよさそうだが、もし分割しないのなら、これ以上の読点を打ってはいけない。むしろ、「書かれているので」の直後の読点も取ってしまうほうがわかりやすくなる)
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 この段階ではきわめて基本的なことしか書いていない。
 深く掘り下げる気がなかったし、書き手もそこまで深みにはまっていなかった。
 その後病状は悪化した。読書感想文集から引く。
 こういう話を真剣に読むと激痛の頭痛が痛くなるので、危険を感じたら無視してほしい。「ガ、」にはいくつかの種類があることと、多用するのは(とくに長い一文では)避けたほうがいいことだけを覚えておいてほしい。
 まず、この「ガ、」の話の原点とも言える清水幾太郎論文の書き方』(略して「清水読本」)の読書感想文から。

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【引用部】
 では、「が」が一般にどういう意味で用いられているか。用途の全体を網羅することは思いも寄らないが、若干の重要な用途を挙げてみると、第一に、「しかし」、「けれども」の意味がある。前の句と多少とも反対の句が後に続く場合である。反対の関係が非常に強い時は、「にも拘らず」の意味に使われる。第二に、前に句から導き出されるような句が後に続く場合に、「それゆえ」や「それから」の意味で用いられる。第三に、反対でもなく、因果関係でもなく、「そして」という程度の、ただ二つの句を繋ぐだけの、無色透明の使い方がある。このほかにも多くの用法があるけれども、差当って、この三者だけを見ても、「が」用途が甚だ広いこと、従って、これが甚だ便利な言葉であることは判る。(p.53)

 第III章のテーマは〈「が」を警戒しよう〉。この記述は広く知られ、多くの文章読本が同様のテーマを扱っている。後世への影響力という点では、「第2章2」で紹介した谷崎読本の接続詞に関する記述と双璧かもしれない。接続詞に関しては、やはり「第2章2」で紹介した清水読本の記述のほうがよほど説得力があると思うが、なぜかあまり注目されていない。
 それはさておき、接続助詞の「が」について見ていきたい。「が」という表記に異和感があるので、以下は「ガ、」と書くことにする(「が」だけだと、主語などを示す格助詞の「が」と区別がつかない)。
 この問題は、個人的にとても興味がある。単なる書きグセなんだろうガ、「ガ、」を使うことが多いからだ。「ガ、」を警戒しなければならないのは正論だガ、実践するのは簡単なことではない。「ガ、」を減らせと書いてある文章読本は多いガ、キッチリと解決策を示しているものはほとんどない……と人工的に「例」を作ってみたガ、「ガ、」を含む文が続くと相当みっともない。
 本書は「ガ、」を3つに分けているガ、〈第二〉と〈第三〉とはどう違うのだろう。いろんな例は出てくるガ、どうもピンと来ない(いくらなんでもしつこいのでもうやめる)。こういうときこそ具体例が欲しい。
 ハッキリしないので、ほかの文章読本を見てみる。

【引用部】
「が」という接続詞の働きには、逆接と順接の2種類がある。逆接とは、「しかし」と同様に「が」の前後で逆の内容を述べるものだ。短い文であれば、逆接の「が」を使っても特に問題はない。一方、順接とは、「それで」や「~ので」と同様に、単純な前後関係を述べるものだ。不用意に「が」を使うと、文脈から順接か逆接かを判断するよう読み手に強いることになる。このため、順接の「が」を使った分は2つに分けた上で、適切な接続語句を補うのがよい。(日経BP社出版局監修『説得できる文章・表現200の鉄則』p.45)

 このあとで、次の【原文】と【修正文】をあげている(体裁と一部の表記はかえている)。
【引用部】
1)「逆接のガ、」を使った長い文を2つに分割
【原 文】現在のシステムでも、輸送サービスの構成要素をひとつひとつシステムに反映させていくことで、やがては問題を解決できるかもしれないガ、膨大な手間とシステム開発費用がかかる。
【修正文】現在のシステムでも、輸送サービスの構成要素をひとつひとつシステムに反映させていくことで、やがては問題を解決できるかもしれない。しかし、膨大な手間とシステム開発費用がかかる。
2)「順接のガ、」を使った文を2つに分割
【原 文】工程表は必要な工程の種類に合わせて作成するガ、以下のような書式を準備しておくと便利である。
【修正文】工程表は必要な工程の種類に合わせて作成する。例えば、以下のような書式を準備しておくと便利である。

 この記述を踏まえて清水読本を読み直すと、〈第二〉も〈第三〉も「順接のガ、」だろう、って気がする。まあ、あまり厳密に考えてもしょうがないか。
「逆接のガ、」が長い文の中に出てきたときには、分割して逆接の接続詞を使ったほうがいい。〈短い文であれば、逆接の「が」を使っても特に問題はない〉ことは、前にも書いたとおりだ。
 一方、「順接のガ、」はできるだけ避けて、文を分割したほうがいい。ここで見た【修正文】では〈例えば〉を使っているガ、どんな接続詞を使うのかはケース・バイ・ケースだ。接続詞を使わずに、単純に分割すればいいことも多い(この【修正文】も、接続詞の〈例えば〉はなくてもいいかもしれない)。分割しないで少し書きかえれば済むこともある。いずれにしても、「順接のガ、」は一文が短い場合でも避けるのが原則。一文が長い場合は避けるのが鉄則、ぐらいのことは書いてもバチは当たらないだろう。
 結論を書くと、一文が長い場合は「逆接のガ、」であっても「順接のガ、」であっても「ガ、」は極力使わないほうがいい、ってことになる。一文の中に「ガ、」が2回以上出てくるのは論外。「ガ、」を使う文が2つ続く、なんてのも避けたほうがいい。
 ここで「ガ、」の話は終わらせてしまえればラクなのだガ、そうはいかない。ここから先は相当メンドーな話になるので、覚悟してほしい(読み飛ばして先に進むって選択肢もある)。
「ガ、」には、基本的に「順接のガ、」と「逆接のガ、」の2種類がある。そのほかに、どちらとも考えにくい「曖昧のガ、」とでも呼ぶべきものがある。厳密にいうと、もうひとつ「仮定のガ、」とでも呼ぶべきものもあり、「雨が降ろうガ、ヤリが降ろうガ、……」のような使い方をする。この「仮定のガ、」はホントに特殊なもので、めったに出てこない。書きかえるのも簡単で、気に入らないなら「雨が降っても、ヤリが降っても、……」とでもすればいい。
 では、「曖昧のガ、」がどんなものなのか、例をあげて見てみよう。

1)意味的には逆接の「曖昧のガ、」
【原文1】
 考えがまとまりきっていないガ、書いてみよう。
 この「ガ、」が「順接のガ、」ではないことは明らかだ。じゃあ「逆接のガ、」と考えて分割してみよう。
【書きかえ文1】
 考えがまとまりきっていない。しかし、書いてみよう。
 分割した2つの文が短すぎて不自然に感じられるので、「逆接のガ、」と考えるのも無理がありそうだ。ただし、意味的には「逆接のガ、」とほとんどかわらないことは、少し書きかえるとハッキリする。
【原文2】
 この問題に関しては考えがまとまりきっていないガ、現段階でわかっている範囲のことを書いてみよう。
【書きかえ文2】
 この問題に関しては考えがまとまりきっていない。しかし、現段階でわかっている範囲のことを書いてみよう。
 このように「ガ、」の前後が長くなると、フツーの「逆接のガ、」になる。どうやら、「ガ、」の前か後ろかが短いと、「逆接のガ、」のように分割すると不自然になるらしい。文全体はソコソコ長くても、「ガ、」の前か後ろのどちらか一方が短いと、「逆接のガ、」が「曖昧のガ、」になってしまう。次の【原文3】と【原文4】で確認してほしい。
【原文3】(「ガ、」の後ろが短くて「曖昧のガ、」になっている例)
 この問題に関してはいろいろな例外もあり、単純に見えて意外に複雑なので考えがまとまりきっていないガ、書いてみよう。
【原文4】(「ガ、」の前が短くて「曖昧のガ、」になっている例)
 考えがまとまりきっていないガ、この問題に関していくつかの例を示しながら現段階でわかっている範囲のことを書いてみよう。
 ただし、この【原文3】と【原文4】は人工的に作った「例」で、実例はあまり見かけない。数少ない実例に出合ったら、文全体があまりにも長くなるときだけ、書きかえればいい。「ガ、」の部分で分割して、短いほうに少し言葉を加えればいいだろう。

2)意味的には順接の「曖昧のガ、」
「順接のガ、」も、「ガ、」の前か後ろのどちらか一方が短いと分割するのがむずかしくなり、「曖昧のガ、」になってしまう。たいていの場合は、ちょっと書きかえれば「ガ、」を消すことができる。しかし、書きかえ方はケース・バイ・ケースなので、簡単には説明できない。いちばん一般的なのは、「~に対する私の意見だガ、……」「次に~についてだガ、……」みたいな用法。この場合は、「だガ、」を「は、」にすればいい。
 問題は、簡単には書きかえることができないケースだ。たとえば、前に「第2章3」で作った次の文にも、2)の「曖昧のガ、」が使われている。
【原文5】
 やってみればわかるガ、「天声人語」の文章みたいになる。
 前に見たように、接続詞を使わずに単純に分割できなくはないガ、かなり言葉足らずになる。「曖昧のガ、」を避けたいのなら、次のように書きかえることになる。
【書きかえ文5-1】(最小限の書きかえで「ガ、」を消した例)
 やってみればわかるように、「天声人語」の文章みたいになる。
【書きかえ文5-2】(大幅に書きかえて「ガ、」を消した例)
 (実際に)やってみると、「天声人語」の文章みたいになることがわかる。
 できれば書きかえが最小限の【書きかえ文5-1】をすすめたいガ、なんかヘンな気がする。【原文5】のままか、【書きかえ文5-2】のほうが自然だろう。
 2)の「曖昧のガ、」は、いろんな形があり、使わないことを徹底するのはむずかしい。「とてもじゃないガ、説明できない。」なんて文になると、無理に書きかえるとニュアンスが大きくかわってしまう。
 1)も2)も簡単には分割できない。書きかえるのもむずかしそうなら、「曖昧のガ、」を使うほうが自然だろう。ただ、ひとつだけ気をつけたほうがいいことがある。1)と2)の「曖昧のガ、」は、文頭に「前置き」みたいなニュアンスのことを書くときに使うことが圧倒的に多い。使った場合は、後ろがあまり長くならないようにすること。この点にさえ注意していれば、さほど神経質になる必要はない。

3)逆接・順接のどちらにもとれる「曖昧のガ、」
 まったく別の「曖昧のガ、」の例もある。「逆接のガ、」とも「順接のガ、」とも考えにくいものを全部まとめて「曖昧のガ、」なんて呼んでいるから、こういうことになる。
【原文6】
 小林はクリームパンを食べたガ、中村はカレーパンを食べた。
 この「ガ、」は「逆接のガ、」とも「順接のガ、」とも考えられる。それぞれの形に書きかえてみよう。
【書きかえ文6-1】(「逆接のガ、」と考えた場合)
 小林はクリームパンを食べた。しかし、中村はカレーパンを食べた。
【書きかえ文6-2】(「順接のガ、」と考えた場合)
 小林はクリームパンを食べた。そして、中村はカレーパンを食べた。
 なんでこんなことになるのかはわからない。さすが「曖昧のガ、」ってことにしておこうか。どちらの意味になるのかは、文脈しだいだ。文脈しだいでどちらにもとれるのはやはりわかりにくい文なので、避けたほうがいい。使うとしたら、文脈で明らかに逆接とわかる場合に限るべきだ。順接の意味なら、「食べたガ、」ではなく「食べ、」ぐらいにしておけばいい。3)の「曖昧のガ、」に関しては、これが最も基本的な対処法だ。もちろん、文を分割する方法もある。
 これ以上ウダウダ書いているとなんの話をしているかわからなくなるので、清水読本の話に戻る(もう手遅れかな)。

 本書では、「ガ、」の曖昧さを示すために次の例をあげ、両方が成り立つとしている。
  1)彼は大いに勉強したガ、落第した。
  2)彼は大いに勉強したガ、合格した。
 この例文をそのまま引用している文章読本を見ることがあるガ、そんなに好例とは思えない。1)が「逆接のガ、」で、2)が「順接のガ、」なんだろう。「ガ、」が逆接にも順接にも使えるのはたしかだガ、2)は日本語としてヘンなのでは。自然な日本語にするには、もう少しヒネる必要がある。
  1)-2 彼はすべてを犠牲にして勉強したガ、その努力はムダになった。
  2)-2 彼はすべてを犠牲にして勉強したガ、その努力はムダではなかった。
 ここまで変形してしまうと、2)-2は「順接のガ、」ではなくなってしまう気がする。先に見た例と同様で、2通りの書きかえができる。
【書きかえ文2)-2-1】(「逆接のガ、」と考えた場合)
 彼はすべてを犠牲にして勉強した。しかし、その努力はムダではなかった。
【書きかえ文2)-2-2】(「順接のガ、」と考えた場合)
 彼はすべてを犠牲にして勉強した。そして、その努力はムダではなかった。
 やはり2)-2は、逆接・順接のどちらにもとれる「曖昧のガ、」と考えるべきだろう。ただし、この場合は順接にするために「基本的な対処法」を使うのはむずかしい。「勉強したガ、」を「勉強し、」にすると、ちょっとヘンだ。次のように書きかえることになる。
【書きかえ文2)-2-3】(「順接のガ、」と考えた場合)
 すべてを犠牲にして勉強した彼の努力は、ムダではなかった。
 とにもかくにも、一文が長いときには「ガ、」を使わないほうがいい、ってことは間違いない。一文がさほど長くなくても、意味が曖昧になるときには「ガ、」は極力使わないほうがいいのだろう。書いているほうも頭が痛くなってきたので、とりあえず「ガ、」の話からは離れる(あとでもう少しだけ書くが)。
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 さらに病状は悪化する。
 次は、野口悠紀雄「超」文章法』の読書感想文から。

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【引用部】(一部の表記をかえている)
「曖昧接続の『……が』を使うな」という忠告がある。「曖昧のガ、」とは、つぎの文中の「ガ、」のようなものである。
  「彼は頭はよいガ、走るのも速い」というような表現がよく使われるガ、この
  「ガ、」は明確な意味を持たない。頭のよい人は必ず遅いというなら、この
  「ガ、」は〈しかし〉の意味になるガ、そうとも限らない。
「曖昧のガ、」を使うと、論理関係がはっきりしなくとも文を続けられる。そこで、非常に頻繁に使われる。
「作文の際の留意事項だガ、最も重要なのは、曖昧表現しないことだ」
というように。
「〈曖昧のガ、〉を排除せよ」という注意は、正しい。ただし、これは正論である。正論の常として、息がつまる。一度、「曖昧のガ、」をまったく使わずに本を一冊書いたことがあるガ、息がつまった。「死ぬまでに一度たっぷりつゆをつけてそばを食いてえ」という気持ちがよくわかった。ただし、一つのパラグラフに三度以上は現れないようにしたい。
 私が初めて「〈曖昧のガ、〉を使うな」という注意に接したのは、清水幾太郎の『論文の書き方』である。しかし、いまこの本を読み直してみると、「曖昧のガ、」が何度も出て来る。「私が言うとおりにせよ」と注意するのは簡単だガ、「私がするとおりにせよ」と示すのは至難のわざだ。(p.210~211)

 お待たせしました。「曖昧のガ、」の話の続きです(誰も待っちゃいないか)。
 引用部の最後から2行目の「簡単だガ、」の「ガ、」に傍点がついているのは、「このように」ぐらいの意味だろう。残念でした。これは「曖昧のガ、」ではなく、「逆接のガ、」の可能性が高い。フツーに「。しかし」に書きかえられる。数行前の「書いたことがあるガ、」の「ガ、」は、意味的には順接の「曖昧のガ、」。書きかえるなら、「書いたところ、」ぐらいか。
 本書はこういう「技」をいくつか使っているガ、ここはちょっとスベったみたい。文章読本の中では、このテの「技」をよく見かける。気持ちはわかる。あんなシンキ臭い文章を書いていると、少しは息抜きもしたくなるって。なかには、盛大にスベっている例もある。ユーモアをはき違えてる例も多い。そんなことをしなくても、大丈夫なのにね。大マジメに書いてギャグになってるとこがたくさんあるんだから。
 さて、「曖昧のガ、」の話だ。引用部の例文には、「ガ、」が3回出てくる。

1)彼は頭はよいガ、→逆接・順接のどちらにもとれる「曖昧のガ、」
「彼は頭はよい。しかし、走るのも速い」の意味にもとれるし、「彼は頭はよい。そして、走るのも速い」ともとれる。どっちの意味になるかは文脈しだいだ。たとえば、「頭のよい人はたいてい運動が苦手だ」みたいな流れだったら、「逆接のガ、」になる。
 一方、「天は二物を与えず、が当てはまらない人もいる」みたいな流れなら、「順接のガ、」になる。ただし、その場合はこんな文を書くヤツが悪い。順接の意味なら、「よいガ、」を「よく、」とか「よいうえに、」ぐらいにするほうがずっと自然だ。その場合は「頭は」ではなく、「頭も」のほうが自然かもしれない。

2)よく使われるガ、→逆接・順接のどちらにもとれる「曖昧のガ、」
 1)で見たものとはちょっとタイプが違うガ、やはり逆接・順接のどちらにもとれる。「ガ、」を「。しかし、」に書きかえれば逆接になる。1)と違い、順接と解釈して「。そして、」に書きかえるとヘンになる。「。」に書きかえるなら、少しマシかもしれない。次のように書きかえれば、もう少しマシになる。
【修正案】
「彼は頭はよいガ、走るのも速い」というような表現でよく使われる「ガ、」は、明確な意味を持たない。

3)意味になるガ、→意味的には逆接の「曖昧のガ、」
 ちなみに、「作文の際の留意事項だガ、」の「ガ、」は、意味的には順接の「曖昧のガ、」。この場合は、「だガ、」を「は、」にすると、直後の「重要なのは、」と「は、」が重複するのでヘンになる。書きかえるなら、「のなかで」(もしくは「として」)ぐらいか。
 こうやって例をあげて考えていくと、「曖昧のガ、」の話はやはり相当むずかしい。あまり深入りしないほうがいいのかもしれない。
 それはさておき、最後の一文は、すべての文章読本の書き手が肝に銘ずるべき至言。
〈「私がするとおりにせよ」と示す〉ことを少しでも意識してくれたら、もうちょっとわかりやすい文章になると思う。自分でも守れないようなムチャな心得を、ズラズラと並べたてたりもしないはずだ。
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【続きは】↓
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2374.html
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-3164.html

 やはりどうしたって下記あたりと関連してくるんだろうな。
【第2章2】接続詞
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-76.html
【第2章3】一文の長さ
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-80.html
【第2章4】句読点の打ち方
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-45.html


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